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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の二:サダク編:キュンキュンブーメラン
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ちょっと一泊

 ウルサリオン族の可愛らしさに心引かれたレイラ達は、子どもに案内されるまま宿に到着した。


 宿はさほど大きくもなく、一階建ての建物に数部屋ある程度の大きさだった。無論、部屋は男子と女子で別れた。

 レイラとギエナ、そしてポリマは部屋に荷物を置くと、寮とは異なる宿の作りに感心した。


「へぇ~すごいなぁ。この宿って竹で出来てるよ、ギエナ」

「んだねぇ、隙間はキノコを溶かした奴で埋めてるん?」


 ポリマは二人よりも先に荷物を置くと小さなバッグを持った。


「ふぅ、やれやれ。今日は布団で眠れそうね。さぁ、二人とも荷物置いたら夜食を食べに行く約束でしょ?」


 レイラは不思議に思ってたことをポリマに尋ねた。


「ねぇ、ポリマ」


「なによ?」


「どうして助けてくれるの?え、え~っと……、やっぱり、サダクのことが……」


 レイラは、ポリマがサダクが好きだから助けに来たのだろうかと思っていた。種族の壁はあるが羽族なら、そんなものは関係ないのだろうとレイラは考えていた。


「違うわよ」


「えっ」


 即答するポリマにレイラはポカンとした。


「まぁ、お仕事のうちってところね」


「し、仕事……?」


 仕事だと言うポリマにレイラは混乱した。それなら上半身裸でサダクに迫ったのも仕事だったのかと思った。ギエナは知らんぷりをしているだけだった。


「まぁ、いいじゃない。ほら、行きましょう」


「う、う~ん……」


 レイラは促されるように財布だけ持った。


「ギエナ、あんた話している隙に蜘蛛の巣を作ったわね……」


「ぐぇ、エロインに見つかったぁ」


 レイラとポリマが話している隙にギエナは部屋の隅に寝床である蜘蛛の巣を張っていた。


「ムカッ、まだそれを言うか。まぁ、良いけど。部屋を出るときに片付けなさいよ」


「分かってるよぉ」


 レイラにとってこの二人の仲も不思議だった。


「二人とも仲が良いよね、いつ友達になったの?」


「またその質問……じゃなくて、別に良いじゃない」


「あははっ!あたしは誰とも仲が良いのだよ、ね?ポリマちゃん」


「まぁ、そうね。その脳天気なところがあんたの良いところよね」


「むぅ?なんか毒入りジュースな発言が気になる」


「あら、気づいたのね。少しは賢くなったのかしら、蜘蛛娘は」


「くっそう、羽根娘ぇ……いや、違うな。羽根"胸"娘だぁ」


「はぁ?今なんて言った、この子はぁ……」


 喧嘩になりそうになってレイラは頭を抱えた。


「もうっ!終わりっ!行きましょっ!サダク達が待ってるし」


「ふん」

「そだね」


 レイラは、二人の喧嘩で話をはぐらされたような気もしてモヤモヤとした。しかし、これが何かの作戦とも思えず、サダク達との待ち合わせ場所の宿の出口に三人で向かった。


----- * ----- * -----


 レイラ達五人は、飲食店の並ぶ大きな広場に到着した。ウルサリオン族の街は、商人達の行き来が多いためか珍しい食べ物も多く、飲食店も多かった。

 レイラは建ち並ぶお店の屋根が隙間だらけなのが気になった。


(この街の屋根は適当だなぁ。ここは雨が降らないからかな?ポラリスの街が特別なのね)


 レイラの転生したこの世界は謂わば巨大な洞窟のような場所であり、雨がほとんど降らなかった。ただし、湿度は高いため、水蒸気が天井と言える空に貯まり、それが雫となってポタポタと落ちてくる程度の雨は降った。

 レイラは、はるか上空に見える"天井"を見つめて、雨は降ってきそうにないなと思った。


「レイラ、あのお店に入ろうよぉ」


「うんっ!」


 レイラ達は、レストランと言えるかどうか微妙な、屋根も粗末なところに入った。


「お腹空いたんじゃまいかぁっ」


「そだねっ!何か珍しいものが食べたいね」


 レイラとギエナは席に着くとメニューを見ながらあれやこれやと話し始めた。しかし、すぐに悶え始めた。


「うぉぉっ」


「はぁぁっ、キタキタキタ~~ッ」


 二人は注文を取りに来た若い女性のウルサリオンの給仕に悶えた。ピンク色の毛で覆われたこの子は座っているレイラ達ぐらいの背丈をしていて、エプロンらしきものを身につけていた。


「あ、あの……。ご、ご注文を……お伺いしても……よろしいでしょうか?」


 給仕は可愛らしい眼でレイラ達を見つめていたが、二人だけ異様に悶えている女性がいて困り果てた。


「可愛い君がいいぞいっ」

「そそっ!ねぇ、お姉さんの膝に座らない?私のが狭いならギエナの背中なんてどう?」


「それ良いねっ!」

「次は私よっ!」


「えぇ~、しょがない、レイラだなぁ」

「えへへ~」


「え、えぇ……、ありがとうございます。でも、ちょっとそれは……」


 二人の悶え姿に給仕もどうしたら良いか分からなかった。サダクもポリマも呆れていた。


「あんた達、失礼でしょ。彼女もいい大人なんだから……」


「ぶ~ぶ~、真面目じゃな」

「えぇ~、そうだよぉ~」


 すると突然、イェッドが立ち上がった。


「あっ、イェッドが怒ったんじゃまいか?……ごめんちゃい」

「お、怒らないで……、つ、つい……。ね、ギエナ……」


 レイラとギエナは怒られるのだと思って平謝りだったが、イェッドは何処か別の場所を見つめていた。


「あっ、違うよ。ちょっと急用が出来たんだ。食事は適当に選んでおいてくれる?」


「わ、わかりんこ」

「う、うん……」


 レイラとギエナはうんと頷くだけだった。サダクも不思議な顔をしていたが、ポリマだけは冷静だった。


「そうだったわね。一人で行く気?」


「ま、大丈夫でしょ。前回も平気だったし」


「そう……」


 ポリマはその事情を知っているようだったので二人だけの秘密の用事でもあるのだとレイラは思った。サダクも同じように考えていた。


「早く帰って来いよ」


「うん、すぐ戻るよ、サダク」


 イェッドはそう言うと羽根を伸ばして何処かに飛んで行ってしまった。


「行っちゃった……。どしたんだろね、ギエナ?」


「わからんちん。良いじゃん、強いし、一人でも大丈夫だよ。それよりもさ、早く料理を頼もうよぉ。お腹空いたぁ」


「そだね。あぁ、このお魚料理とか美味しそうだよ」


 レイラ達はイェッドのことは気にすること無く食事を注文したが、ポリマはイェッドの向かった方向を見つめていた。


「ポリマはどうするんじゃまいか?」


「……うん?そ、そうね。これにしようかしら……」


 ギエナに促されたポリマは、いかにも適当に食事を選んだ。


「野菜かぁ……つまらん」


「つまらないって、あなたねぇ……」


 ポリマが上の空だったのがレイラは気になっていた。


(イェッドを心配している?何かあるのかなぁ……)


「わっ!見てっ!レイラッ!」


「ううん?なになに?」


「海にしかいない虫の料理だってっ!」


「えぇ……。また、それぇ?」


 イェッドの動向は気になったがレイラ達は料理を注文しながら、彼が戻ってくるのを待つことにした。


----- * ----- * -----


 当のイェッドは、上空から目標を定めると羽根をたたんで、わざと大きな音を立てて、裏道にいる輩の後ろにドカンと降り立った。


「え~っと、こんばんは~」


 建物の隙間からサダク達を襲おうと武器を構えている三人のウルサリオン族の者は、突然の訪問者に驚きの声を上げた。


「お、お前、どこからっ!?」

「こんばんはだとっ!ふ、ふざけるなっ!!」

「何者だっ!!」


「もちろん、↑からね」


 イェッドは指で上を指した。


「いや、それよりも僕らを襲おうとしていたでしょ?」


「ち、違う……」

「何で分かったんだ?」

「バカ、お前、何で言うんだ……」


 それに答えようとするイェッドの演技はグダグダだった。


「ななな~何で分かったかってぇ?りゅ、りゅ~う族の、か、感かなぁ」


「何が感だっ!」

「ふ、ふざけ……」

「この野郎っ」


「ま、まぁ、それは置いておくとして。時間が無くてね、時短にご協力をお願いします」


 イェッドは頭を下げつつ、ちらっと三人を見つめた。


「このまま引き下がっていただく事は……」


「時短っ!?」

「だけど弱そうだぜ」

「こいつからやっちまおうっ」


「駄目だよね、やっぱり……」


 ため息をついたイェッドは、襲ってくる者達に向かって手を大きく振りながら魔法を唱えた。


<< 睡眠のコトダマ アエ・ネネ・ネネ…… >>


 三人の武器がイェッドに当たる前に詠唱は終わり、唱えた睡眠魔法で彼らは眠ってしまった。


「明日の朝までおやすみなさいっと。ふむ、間違ってコトダマって言っちゃった……。さて戻るかなぁ、僕もお腹空いたよ……ん?」


 三人のウルサリオン族は、腕輪をしていたのだが、イェッドはその色に違和感を感じた。


「あれ、銀色だったはずだけど金色だ……。しかも右腕から左腕に変わっている?どういうこと?少し変わった?」


 イェッドは疑問に抱きながらも腕輪の一つを持つと、服にしまった。そして羽根を広げてその場から飛び去った。


ア 身

エ 体

ネ 深く

ネ 眠る

ネ 深く

ネ 眠る


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