ウルサリオンの街
サダク達一行は、ポラリスから北西に位置する都市「スアリ・エクア」に到着した。
道中、理性を失った魔族達から襲われることもあったが、サダクとギエナによる前衛攻撃、臨機応変に動くイェッドの中衛、そして、支援魔法を唱えるポリマと強力な攻撃魔法を唱えるレイラによるバランスの取れたパーティーだったため、難なく退けた。
「あたしら最高じゃまいか?」
虫型魔族との戦闘を終えて槍を納めたギエナは、他のメンバーを見てそう言った。
「そうね、ギエナ。でも、器用貧乏なイェッドが一番役立たずね」
「ポリマ、何それ酷いっ!いきなりの駄目だしっ!一生懸命動いているのにっ!」
イェッドはポリマの唐突な攻撃に腹を立てた。
「イェッドは強いぜ?本気出していないだろ。魔法剣はすげーしな」
「ありがとう、サダクッ!君は心の友だっ!うぅぅぅ……」
突然涙を浮かべたイェッドにサダクとポリマは呆れた。
「……ハァ~、泣くほどでもないだろ……」
「泣くなっ」
ギエナは腹を抱えて笑っていた。
「あははははっ!楽しいね、レイラッ!」
「うん、そうだね」
レイラは考え事をしているようだった。
「ありゃ、元気ない?」
「ううん、そんなことないよ」
首を横に振ったレイラは、ゲームでもこんな風に話ながら進められたらもっと楽しめたのにと思ってた。
(それに……)
----- * ----- * -----
しばらくして、一行はキャンプを張った。ゲームではアイテムからテントを選択するだけだったが、実際にテントを張ったりするんだなとレイラは思った。
(当たり前かぁ。あっ、結界を張った方が良いか)
<< ワ・アラ・シレ・ソ >>
(言葉の一文字一文字に意味があって、組み合わせると魔法になっちゃうんだよなぁ。杖で文字を描けばいいだけだけど、相変わらず不思議。うーん、唱えると少し疲れたようになるんだけど。これが魔力……?これって何なんだろ)
レイラが周りを防御する結界を掛け終えるとギエナが話しかけて来た。
「やっぱ、レイラってば元気ないんじゃまいか?」
「えぇ~、また?違うよ?」
「ならいいんだけどさぁ~。すっごい深刻な顔しているんだもん」
「そう?」
「不安なん?」
「う~ん、少しね」
「あたしらがいるから大丈夫じゃまいか」
「うん、そうだね。槍を持った蜘蛛の戦士さんっ」
レイラは笑って答えたが、遠くでテントを張っているサダクをチラリと見た。ゲームでこれから起こるを知っていた彼女は彼のことが気になっていた。
「えへへっ。んじゃ、ご飯の用意でもしよりんか」
そう言うギエナの持っている巨大な昆虫をレイラは気になって仕方なかった。昼間に倒した魔族だった。
「虫料理は駄目だからね……」
「えっ、美味しいのにぃ……」
レイラは、やっぱりそうかと思った。
(ゲーム通りならこれからの光景はサダクには辛いはず……。私が励まさないと)
----- * ----- * -----
翌日、レイラ達はキャンプをたたんで進んでいると二千人ぐらいが住むような大きな街が見えてきた。
「あ、街が見えてきた。あそこが君の国?(ここに街はあったかなぁ)」
「ちげぇって、あんな小さくないぜ?ここは、ウルサリオン族の国だな」
「へぇ~(うるさりおん?そんな魔族はゲームにいたかな?)
レイラは、サダクの国かと思ったが違うらしかった。
「あいつらは商売が上手くてな。俺の国にも良く来ていたんだ」
「そうなんだね」
「でも、どうも好きになれない」
「どうして?」
「そいや何でだろ?ウラオモテがあるような気がするからか」
「ふ~ん。お、入口に着いたぞ~」
ここは、目的のスアリ・エクア国に行く途中に存在する休憩所のような小さな国だった。
大きな建物はあまり見当たらなかったが、街の入口から見える大通りには商人の街らしく露店が多く見えた。大きな果物や、織物、宝石や、ただの石のようにしか見えないものや、大小様々な壺もあったり、見たことも無いような大きな花も売っていた。
ゲームでは見られないような品々にレイラは浮き足だった。
「わぁ~、すごいっ!沢山の露店だね。……!!!」
しかし、すぐに立ち止まってウルサリオン族に見とれてしまった。それはギエナも同様だった。
「ぬぉっ!レ、レイラぁ?こ、この魔族達ってば……」
レイラとギエナは顔を見合わせてハモった。
「可愛いっ!」
「可愛いっ!じゃまいかっ!!!」
ウルサリオン族は、見た目はどう見ても地球の熊だった。しかし、それの背丈はレイラ達と同じぐらいか、それよりも小さかった。地球の熊よりもフワフワとした毛並みはカラフルな色をしていた。それらがちょこちょこと歩く姿はぬいぐるみのようであり、レイラとギエナの心を掴んで離さなかった。
「サダクッ!ここに泊まろうよっ!」
「さんせ~いっ!激しく同意同意同意っ!」
二人の言葉にサダクは何を言ってるかと思った。
「バカ言うな、時間がないだろ」
「あぁ、もうっ!どうしてこんな可愛いのっ!?」
「た、たまらんじゃまいかぁっ。あ、あそこ見てレイラッ!て、てて、手を繋いで歩いてるぅ」
「きゃ~っ!ほ、ほんとだぁ。あ~~っ、ギエナッ、あ、あそこ、か、肩車してるっ!」
「ぐほぉぉっ!あ、あたしはかわいさで死んじゃうかもしれまいっ!攻撃力がたけぇぇっ!勝てる気がしまいぃっ!」
二人の女子の騒ぎようにイェッドも頭を抱えた。
「あぁ、やっぱりこうなったか。サダク、どうする?」
すると一行のところにウルサリオンの子どもがやって来た。
「ねぇ、みなさん」
「キャ~~ッ!キタキタキタ~~来ちゃった~~っ」
「のほっ!チョコチョコと歩いてるんっ!ホントに生きてるんか~い」
「よ、良かったらうちの宿屋に泊まりませんか?」
どうやら宿の誘い込みだったが、その子のモジモジとした動きに二人の眼はハートマークになっていた。
「も・ち・ろ・んっ!そうよね、サダクッ!」
「あったり前じゃまいかっ!泊まらなんだっ」
「お、おいおいっ、勝手に決めるなって……ハァ~」
もはやレイラとギエナのときめきは止められず、レイラはその子どもを抱きかかえると、その子の指差す方向に歩いて行ってしまった。
「ああん、抱きここちぃぃっ」
「レイラぁ、ズルいズルいぞぉっ!あたしもあたしもっ!!」
他の者達は呆れてついて行くしかなく、一行はここで一泊することになった。
----- * ----- * -----
建物の影からその光景を怪しく見つめる者達がいた。
「あいつは三ツ目族の王子では……?」
「ポラリスの学校に行ってたという、あいつか」
「戻ってくるとは。馬鹿な奴だ」
「やってしまうか?」
「いや、まずい。ここは人が多い」
「宿に泊まるらしいな。夜を狙おう……」
そいつらは互いに示し合わせると建物の奥に消えていった。
2024/12/21:↓ 魔法の説明を追加
ワ我は
・
ア光を
ラ注ぎ
・
シ横に
レ開き
・
ソ固める




