ダチ
翌日の早朝、まだ薄明かりの中、サダクは目を覚ました。自分でも信じられなかったが、焦りがあったにも関わらずグッスリと眠れた。そして焦りも消え活力が溢れてきた。不思議と冷静にもなれた。
(何て気分の良い朝だ……恐るべし、エジテク隊長)
サダクの中でエジテクはすでに"隊長"扱いだった。総計しながら身支度を調えていると、パンの匂いがサダクの鼻を刺激した。
(エジテク隊長は朝食までご準備をしてくださったのか……?あぁ、ありがたいことだ)
サダクはエジテクの心遣いに感謝しながら一階に降りていった。
「おはようございますっ!昨日はありがとうございました。お陰で素晴らしい朝を……むかえ……」
清々しい気持ちでエジテクに感謝と共に朝の挨拶をしたが、食卓の光景に身体が固まった。
「は、はぁぁぁ……?」
「あ、サダクッ!おはよ~っ!遅いんじゃまいか?……モグモグ」
「そうだよ、急ぐんだろ?エジテクさん、このパンは相変わらず美味しいですね。え、もう一枚頂けるっ!ありがとうございます……うぅぅぅ……」
「あんたねぇ、甘えるのにもいい加減にしなさいよ、この貧乏学生っ!それと泣くなっ!」
何と食卓には、ギエナ、イェッド、そして、ポリマがしれっと座って朝食を食べていた。自分の旅立ちをどうやって知ったのか、ここに泊まっている事をどうして知ったのか、彼らの意図も分からず困惑した。しかも彼らは制服姿だった。
「お、お前ら……どうして……」
エジテクは肩をすくめて苦笑いをしていた。
「ご機嫌な友達の到着らしいな。しかし、彼女はお怒りのようだぞ……」
エジテクの言ったとおり、彼らの横にいるレイラが立ちながら涙ぐんでこちらを睨んでいた。
「レ、レイラ……」
「サダクぅぅぅ」
サダクは恐ろしさのあまり、青ざめていった。
「あ、あのだな……、これには理由があってだな……」
「もうっ!何で一人で行こうとするかなっ!」
「い、いや、だって……危険な旅になるんだ」
「ふざけないでっ!私は先生だって驚くような魔法使いになったんだからっ!」
<< ワ・ルル……
「そ、そうだけど……、ま、待て待て何を唱えようとしているっ!!」
第三者なギエナは、パンをかぶりながらふざけ始めた。
「そうだよ、モグモグ……。様々な魔族達から禍族と恐れ奉られるレイラ様だぞ……モグモグ……。ほら、禍人形もそう言ってる……おぉ、本当に目が光ってるっ!」
ポリマはそんなギエナに呆れていた。
「あんたねぇ、話すのか食べるのか人形遊びをするのか、どれかにしなさいよ……」
イェッドは苦笑いをしていた。
「あはは……。サダク、つまりさ、僕らも連れて行ってほしいんだ。一人じゃ不安だろ?」
ギエナ、イェッドとポリマは、サダクについて行く気満々でこの場にいた。
「お、お前ら……、俺について来る気なのか……?」
「そうさ、ギエナは戦闘力が高いし、ポリマはこれでも魔法能力が高いし、僕はどちらも得意だし」
「モグモグ……、槍は表に置いてあるよ~。最新版っ!」
「そうそう……って、イェッド、あんたさり気なく私をディスったわね……」
ふざけたダチだったが、サダクはこの三人の能力をよく知っていた。これほど心強い味方はいなかった。しかし、どうしてここまでしてくれるのか分からなかった。何があるか分からないし、死の恐れすらあった。
「……だ、だけど、どうしてそこまで……」
その答えはレイラが答えた。
「バカッ!バカバカバカッ!」
レイラはサダクに寄ると両手でサダクを叩き、そして抱きついた。彼女の目には涙が浮かんでいた。
「どうして一人で……うぅぅぅ……」
「わ、悪かったって……。慌ててたし……、それにこれは俺の国の問題だ……」
サダクの言葉を聞いてレイラは少し離れるとムッとした顔をした。
「わ・た・し・た・ち・の・く・にぃっ!でしょっ!?」
サダクはそう言われてハッとした。レイラの自分への思いが痛いほど伝わった。
「レイラ……」
「私を置いていったら許さないんだからっ!」
「悪かったって、そんなに怒るなよ、女王様……」
唐突に女王と言われたレイラは急に顔を赤くした。
「じょじょじょ、女王様ぁぁぁ?そ、それって……」
ギエナがこんなチャンスを見逃すはずは無かった。
「うほっ!女王様だってぇ、げへへへ~っ……。レイラが私たちの国~とか言うからどうなるかと思ったらっ!うほほほほ~っ……ごちそうさまっ!……あ、違います。まだパン食べます……」
サダクとレイラは顔を赤らめるしか無かった。
「君の国で何があったのか調べに行くだけだろ?何も無いかもしれないじゃないか」
イェッドの発言にサダクも納得した。もしかしたら、何も問題ないかもしれないと思った。
「まぁ、そうかもだが……」
「それに何かあっても僕らがいれば百人力……違うか、百魔族力ってこと……だろ?」
「はぁ~……何があっても知らねぇからな」
サダクはため息をしつつ、しかし、お節介なダチ共に対して顔は笑っていた。
「あははっ!レイラぁ~、ついてって良いってさ~っ!……モグモグ」
「だね」
「フムアルに感謝しなさい。あいつが私達に教えたんだから」
「ちっ、フムアルの奴か……」
ともかく、こうして五人によるサダクの国「スアリ・エクア」への旅は始まった。
「あれ、フムアル達は……?」
「あぁ~、可哀想な犠牲者ちゃまたちね……モグモグ」
「???」
----- * ----- * -----
寮では柱にくくりつけられたフムアルとシェラが大声を上げていた。
「寮長っ!ど、どうして行かせてくれないんですかっ!<< キ、キノスラ寮長っ!これを外してください! >>」
「そうですよ、仲間のピンチなんです……は、外す……」
「あぁ、シェラが魅了されてどうするんだよぉ……」
「外さなければ……」
彼らを縛り付けたキノスラは、フムアルの魅了が届かない位置で見守っていた。
「勝手に寮を出られては困るのだよ……。まぁ、禍族とあの三人がいればどうになかなるだろう……」




