サダクビア・スアリ・エクア その7
俺は、レイラへの思いを知った。
こいつを守らないといけないという思いと胸の高鳴りを感じた。
こいつとずっと一緒にいたいと思った。
本気で一緒にいたかったと分かったんだ。
風呂上がりのあいつを見たからじゃない……はずだ。
その思いは俺に自然とあいつの部屋のドアを叩かせた。
「お、おい、起きているか?」
「お、起きてるよ」
その声が愛おしかった。少し驚いているか?
「ちょっと話さないか?開けて良いか?」
「……う、うん」
「入るぞ」
「はっ!?ままま、待ってぇぇぇっ!!!」
「あ、あぁ、ごめん。そうだよな……、迷惑だったよな……」
拒否られて俺は軽くショックを受けた。入ってよさげだったよな。
「ち、違うのっ!何が違うのかは、い、言えないけど」
「あぁ、例のあれか?」
よく分からない時は禍族な予言だ。今回はよく分からないが。
「そ、それも違うのだ。け、けれどもぉ?……と、ともかくだ。そ、そっちの部屋に行くからっ!!!待っててぇぇぇ」
「わ、分かった。部屋で待ってる」
拒否ったんじゃないのかよって思ったが、同時に浮き上がりそうな気持ちだった。俺は冷静なふりをすると、自室に……と言ってもエジテクさんの子どもの部屋っぽかったが、ともかく部屋に戻った。
扉を閉めてやべぇって思った。結構どころじゃなくて散らかっていた。寮ではいつも同室のフムアルに部屋の掃除してもらっている俺だったが、いても立ってもいられず、ちょ~そっこ~で掃除を始めた。
あ、あれ、このおもちゃはどこに置けば良いんだよ……。
ベ、ベッドが乱れてる……。
げぇ、俺の服が干しっぱなしじゃねぇか……。
床がホコリだらけ?ホウキ……、あ、あった……。
うわ、ホコリが舞ってやべぇ……ゲホッ。
三ツ目のせいかあらゆる事に気づく事が出来た。ついでに念力で色んなところを一気に掃除した。結構便利だな、三ツ目って。使い方を間違っている気もするが……。
自分でも信じられないぐらい速度で掃除が終わった頃、レイラがやって来た。
「サダク、入るね」
「お、おう」
俺は息を切らせているのがバレないようにしていた。
「あ、エジテクさんのお子さんの部屋だったのかな?」
「多分な」
すまん、知ってたぞ。おもちゃだらけだったからな。
それよりも見慣れない服だったからかもしれないが、入口に立つレイラが妙に可愛くて目が釘付けになった。
「な、なに?じっと見つめられると照れるじゃない」
「い、いや……、その服がさ……」
俺は思わず服の話で誤魔化した。
「あぁ、これ?私の部屋はエジテクさんの奥さんの部屋だったの。服は……その……あれだったから洗って乾かしている。だから、上着だけ借りたのよ。大きいから一工夫したんだけど、どう?」
そう言いながらレイラは一回りした。少し濡れた髪が綺麗に舞った。スカート?も綺麗に広がって見えた素足が可愛かった。石けんなんだろうか、すげ~良い匂いが部屋中に広がった。
またも見とれてしまって言葉を失った俺をレイラが見ていた。俺は何か言わないといけないと口を開いた。
「……いいんじゃないか。ににに、似合ってる……。か、可愛い……」
くそ、ろれつが回らなかった。かっこわりぃ……。
「あ、ありがとう……」
「おう……」
恥ずかしくて目線をレイラから逸らした時、あいつが俺の横に座った。あいつの暖かさが伝わって俺の心臓はバクついた。
「今日は誘ってくれてありがとうね」
「あぁ、だけど、お前を危険な目に遭わせてしまった。すまなかった」
「私の方もごめんね。ポンコツ魔道士だったから迷惑をかけちゃった」
「んなことは無い!お、俺がちゃんと守れなかったのが悪いんだ!だから、あんな……その……ゲ、ゲロまみれに……」
「ぷ、ぷぷぷっ!あははははっ!しょ、正直、お前が臭くて臭くて……どうしよかって思って……あははははっ!ここに泊めてもらえて良かったよなっ!あははははっ!」
「な~、わ、笑うなぁぁぁ~っ!」
「……ぷ、ぷぷぷっ!あはっ!あははははっ!」
ゲロの話は触れては駄目だと思ってたが、思わず出ちまった。だけど、妙に可笑しくて二人してしばらく爆笑した。その笑いで緊張がほぐれた。今日はお互いによく戦ったよ、ホント。
「もう、エジテクさんに怒っているときはどうしようかと思ったぞ」
「あぁ……、すまん。頭に血が昇ってしまった……」
今度はレイラのホンネか?まぁ、レイラを危険に追いやったことで頭に血が上ってしまったからな。本当に俺はアホだった。エジテクさんの子どものことをすっかり忘れていたんだからな。
「でもさ、ちゃ~んと謝ったでしょ?偉いぞっ!」
俺はレイラに許してもらえたような気がした。頭を撫でられるのも実は嬉しかった。
「んだよ、ガキじゃ無いんだぜ?……なんだ?これが気になるのか?」
「三ツ目、開いて良かったね」
「色んなものが動かせて便利になったんだ。ほら、見てくれ」
俺は片付け損なった人形を念力で動かした。それをレイラが楽しそうに見つめていた。
「おぉ!すごいっ!ねぇ、もっと目を見せて」
三ツ目を見つめるレイラ、俺はその顔をじっと二つ目で見つめた。もちろん、三ツ目でもレイラの顔を見つめた。
「何か照れるな……あっ」
照れている俺の肩にレイラは頭を乗せた。その瞬間、胸が更に熱くなり、喜びと幸福感に包まれた。時間が止まったようになって俺の心は静かな湖面のようになった。
「今日は私を守ってくれてありがと。格好良かったぞ……」
「お、おう……」
「凄く嬉しかった……。また誘って……」
「おう」
気持ちが抑えきれなくなっていた俺は自然とレイラを引き寄せ、そして唇を交わしていた。唇の柔らかさはレイラの心のようだった。抱き寄せたレイラの身体の暖かさは子どもの頃一緒に眠ってくれた母親のようだった。もはや俺達に勝てる奴はいないと思えた。




