サダクビア・スアリ・エクア その4
結局、俺が魔導学校に登校してから半年ぐらい経ってしまった。
大体、俺は魔法なんて全く興味は無い。だから、学校なんてすぐにやめて旅に出ようと思ってたのに続いてしまった。あぁ、そうだ。フムアル、シェラ、イェッド、ギエナ、そして、レイラ……お前らのせいだからな。
フムアルは、部屋も一緒だったからか良く話した。性格は違うが何故か気があった。シェラは、始めは喧嘩を売ってきたが案外良い奴だって分かった。イェッドはやっぱ戦闘能力が高くて勉強になることが多かった。
ともかく、こいつらと馬鹿騒ぎして先生達を困らせるようなこともしたし、夜の街に遊びに行っては寮長に怒られたこともあったし、学校をさぼって街の外に遊びにも行ったこともあった。そいえば、黒板に先生の似顔絵を描いたこともあったし、教室に魔力風船でいっぱいにしたこともあった。真面目なフムアルとシェラがよく付き合ってくれたもんだ。レイラは駄目だと言いながらも遊びには付き合ってくれた。
今思えば、俺は王子という立場から周りは大人ばかりだった。気さくに話せて、一緒にバカを出来るお前らのせいで学校生活がいつからか楽しめる場所になっていたんだ。
そんなくだらない仲間達の中でレイラへの興味はますます増していった。
レイラは校長が特別に入学させたり、禍族だったりと凄い奴なのかと思ったが、全然魔法が使えないポンコツだった。俺でさえ多少は魔法は使えるが、こいつは魔法が貯まらない体質らしく、禍燃費ランプとか二つ名が付けられた。あまりにも酷い名前で初めて聞いたときは吹いてしまった。
しかし、俺はレイラと居る時だけ相変わらず心が落ち着いた。それは全く理解出来ない感情だった。そのためか、あんだけ教育係の家臣には抵抗したっていうのに、レイラに叱られると抵抗できなかった。
「サダク、しっかり授業聞いていないと落第だよ?」
「禍燃費ランプなお前が何を言ってんだよ」
「ぶ~っ!でも私の方が成績優秀だもんっ!」
「ちっ」
「ほら、魔法言語ぐらい覚えなさいよ。少し教えるから」
「わ~たよ。自分が魔法を使えないくせに何なんだよ」
「ぶ~っ!ぶ~っ!いいから、教科書開いてっ!」
何かある度、レイラは俺に説教を垂れた。
「補習があるんでしょ?教科書は持った?」
「試験勉強しているんでしょうね?」
「はぁ、もうそんな雑な髪になって身だしなみぐらいしっかりしたら?」
「くっさっ!お風呂入ってるの?部屋の掃除していないんじゃない?」
「ま~た、授業さぼったでしょ?ノート渡すからちゃんと映してね」
「あの魔法風船あんたでしょっ!先生に言っておいたからっ!」
「ぷっ!なにあの先生の似顔絵、下手すぎっ!ギエナなんてお腹抱えて笑っていたわよっ!」
しかし、こいつは何かを知っているかのように振る舞うことも良くあった。ある日、俺が王子であることをレイラに伝えた時だった。
「王子、あなたが?うそばっかり……」
俺には驚いたふりをしているように見えた。本当は知っていたんじゃないか?しかし、何で知っているのか分からなかった。禍族は予言者なのか?
ともかく、自分でも変だと思った。昼でも夜でもこいつが気になって仕方なかった。こいつに気づいてもらえない日は無性にイラついた。
ある日、イラつきながら授業で剣を振っていたら剣技の教師、キノスラに見抜かれた。あぁ、そうだ。こいつは寮長もやっている蜂族のキノスラだ。こいつが突然、変な事を言いやがった。
「お前の剣には迷いがある……」
「迷い?な、なんだよ、それっ」
「お前のその迷いでは他人を守れない……」
「……なっ」
キノスラは、俺が誰かを守るために戦おうとしていると言い切った。守る?俺が誰を守るんだ?何でそう思ったんだ?
迷っているとはどういう事だ?
俺がどうして迷っているんだ?
単にイラついているだけだろ?
……いいや、分かっていた。だから何も返せなかった。イラついていたのはレイラのせいだけじゃない。俺自身にイラついていたし、迷いがあった。
剣技を鍛え続けたのは、自分のためなのか?誰かのためなのか?
弟を助けられるような兄貴になりたかったのか?
……禍燃費ランプなレイラを助けたかったのか?
鍛えてどうする?何の意味がある?
「くそっ!」
俺は迷いを断ち切ろうとするかのように剣を振り続けていた。
しかし、剣を振り続けても様々な顔が浮かんでは消えた。寂しそうに俺を見つめるスウド顔、ゴミ扱いした親父の顔、さげすさむようなおふくろの顔、バカにしている家臣共の顔、そして、レイラの笑顔……。俺は頭がおかしくなりそうだった。
レイラ……、レイラ……、レイラ……
俺はどうしたら良いんだ……
また俺を叱ってくれ……
また俺をバカだと言ってくれ……
また俺に色々教えてくれ……
また俺に笑顔をくれ……
頼む、レイラ……
俺を助けてくれ……




