サダクビア・スアリ・エクア その3
自分への疑問を残したまま、俺はフムアル、シェラ、そして、イェッドと魔導学校の男子寮に向かった。
魔導学校では三年ほど通う必要があった。つまり、三学年あって、一学年が三百名だから生徒数は九百もいて、種族も多く、この世界のほとんどの種族が通っているといって良かった。そして、ほとんどの生徒は俺と同じように世界中からやって来る。だから、俺達みたいに学校の用意した寮に住んでいた。
寮では、蜂族のキノスラと呼ばれる魔族が俺達に部屋を案内した。こいつは複眼だから何処を見ているのか分からなくて気持ち悪い。戦うときは気をつけなければならないと思ったが、あの一刺しは注意しないとヤベぇ。……ん?こいつと戦う事なんてあるのか?
「サダクくんだったか?」
前を歩く寮長が突然止まり、こっち振り向いたから俺は身構えた。
「その殺気を止めることだ……。貴様では私には勝てない……」
「……えっ……あ……」
俺は言葉を失って全身に寒気が走った。戦う前に負けたと思ったのは初めてだった。
「ふっ、そんな身構える必要は無い……。寮のルールを守ってさえいれば私は何もしない……。さぁ、君とフムアルくんの部屋はここだ……」
「……」
「はい、ありがとうございました」
寮長は俺の殺気を感じたから止まったのかと思ったが、俺とフムアルの部屋まで来たから止まったのだった。その後、寮長はシェラとイェッドを別の部屋に案内するために移動した。その後ろ姿を見つめたが、あいつの複眼が俺を見つめたような気がして部屋に急いで入った。油断ならない奴だと思った。
「僕はサダクと同じ部屋かぁ。シェラとイェッドが同じ部屋みたいだし。一緒に手続きしたからかな。よろしくね、サダク」
「よろしくな、フムアル」
「それにしたって、あの寮長に何かしたのかい?少し怖かったよ」
「別に何もしてないが……」
「はぁ~、恐ろしい寮長だね。寮のルールを破るととんでもないことが起こりそうだよ」
「あぁ……」
「う~ん、それにしてもこの部屋は……臭いね……」
寮の古くささは年季を感じさせた。なにせこの学校はポラリスが出来てからすぐに創設されたらしい。だから、数百年経過しているってわけだ。つまり、この部屋も何世代にもわたって使われているわけで、フムアルが言うように様々な種族の匂いが入り交じっていて臭かった。俺達は取りあえず、部屋の窓を開けて換気することにした。
それから、それぞれのベッドで座って自己紹介じゃないが話をした。
「……ふ~ん、サダクは剣を極めたいのか」
「だぜ?お前は何しに来たんだ?」
「もちろん、魔法を学びたいからだよ」
「お前らは魅了があるから最強じゃないかよ。魔法なんて要らないだろ?」
「だからイヤなんだ。こんな能力があるから戦いを挑む者もいないけど」
「それのどこがイヤなんだよ、平和でいいじゃないか」
「僕の国の者達は、他の魔族を奴隷にして働かない者が多いんだよ」
「働かなくていいなら。楽だろ?」
「それがさ、みんなだらけていて一日中お酒飲んだり音楽聴いたり遊んだりするだけで、本当に見ていてイヤになるんだ」
「ふむ、そうなのか」
「僕は自分を磨きたいし、一人で生活できるようになりたいんだ。あんな風にはなりたくないね」
「独立心旺盛じゃないか」
「そうかい?君なら僕の国に来たらこうなっちゃ駄目だなって思うよ、きっと」
「そうかもな」
フムアルは、俺みたいに国から逃げてきた駄目人間とは違って、真面目な奴だった。こいつを見ているとしっかりと剣技を磨くのも悪くないなと思った。
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その夜、夕飯を食べに食堂にフムアルと向かった時だった。食堂につながる大きな廊下で俺は目の前の光景に胸が高鳴った。
制服着たレイラがいたからだった。
しかし、すぐに冷静になった。レイラが禍族だからとコボルト族の男に絡まれていた。
「おまえが噂の禍族だなぁぁぁっ!」
「え、え~っと……そ、その……」
俺は考える前に身体が動いていた。
「絶対に許さないっ!種族の恨みを思い知れっ!!!」
「ひっ!」
コボルトの拳がレイラに当たる直前、俺はそいつの腕を握っていた。
「あっ、君はっ!?」
俺はレイラがやっぱりここ(魔導学校)に居たという喜びで力の加減が出来ず、コボルトの手を思いっ切り握ってしまった。跡が残ってしまったかもしれない。少し申し訳なかったかもな。
「サ、サダクッ!」
こうして俺はレイラと再会した。それからは、レイラと同室のギエナ、フムアル、シェラ、イェッドの六人と行動することが多くなった。




