サダクビア・スアリ・エクア その2
道中はそれなりにスリルがあって退屈しなかった。
魔族でも意識を持たない魔族や、野生化した魔族なんかが襲いかかってきた。しかし、所詮、付け焼き刃で武器を振り回すだけの野良魔族に俺が負けるはずもなかった。
いいや、違うな……。
俺を殺すような強い奴を求めていたのかもしれない。いっそ殺してくれれば良いとさえ思った。そうすれば、この嫌な思いともおさらば出来ると思った。
だが、あと少しでポラリスというところまで来てしまった。
魔導学校……。俺は本当に通いたかったのか?スウドを置き去りにして何がしたいんだ?あいつは本当に王になれるのか?役立たずの家臣共に殺されてしまうのでは?守ってやらなければいけなかったのでは?
そんな自問自答を繰り返していたが、目の前で野生のゴブリンに襲われる女を見つけた。
知性のあるゴブリンなら話しも出来たが、こいつらは森に住んでいてクセのある奴らだった。
「ちっ、クソ共がっ!」
俺はこいつらも見ると無性に腹が立つ。俺の国でも畑のものを盗んだり、行商人を襲ったり、国の女や子どもをさらったり、国の倉庫に盗みに入ったりと、やりたい放題だった。この女も誘拐されて弄ばれるのだろうと思うと自然と身体が動いた。
ところが、女が突然大声を上げたから俺の足は止まってしまった。
「食らえぇぇ、ファイアぁぁ~っ!」
ふぁ、ふぁいあ?なんだそれ?
聞いたことも無い言葉を大声で叫ぶだけでゴブリンが逃げるとでも思ったのだろうか。結局、何も起こらず、俺はアホかと思った。
「げへぇ~?そ、そうだったぁ……。魔法が使えるのはもっと先だったぁ……。あっ!あっ!あぁぁっ!リアルゴブリンキモいっ!こ、来ないでぇぇ~っ!」
呆れたがこのままにも出来ず、俺はゴブリンの一匹ぶった切ってやった。もう一匹ぐらいやってやろうかと思ったが、それを見てビビったのか他の奴らはさっさと逃げてしまった。根性無しなところも腹が立つ。
「大丈夫か?」
俺はそう言って声を掛けた。すると女は俺を見て、まるで数年ぶりに会ったかのような驚いた顔をした。意味が分からなかった。更に不思議だったのは、こいつの姿だった。確かに女だったが、どうも理解出来ない姿をしていた。城の図書館で魔族の絵はいくつも見たが、尻尾も角も無く、髪は金色で肌の色も白い魔族など見たことが無かった。何処の出身か聞いてみれば空から来たというし、分からないことだらけになった。
それと……、本当に理解出来なかったのは俺自身だった。
俺は女と話していてなんとも言えない気持ちになった。変なことを言う奴だったが、俺の胸は熱くなり、イライラとしていた気持ちと張り詰めていた気持ちが落ち着くのが分かった。
「……ともかく、ここは危ねぇしな……。俺はこれから魔導学校に行くところなんだ。ついてくるか?街までは送ってやるぜ?」
俺は女をここに置いておくわけにもいかず、初めて感じる気持ちを抑えてポラリスへ連れて行くことにした。
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街の入口でフムアルに出会って、街中でシェラとイェッドに出会った。
イェッドについては本当にビビった。こいつは最強と言われる龍族だった。尻尾や羽は立派だが、服もボロボロでみすぼらしくて本当に強いのかと思った。結局、学校でギエナにも負けるぐらいだから本当はたいしたことないんだと思った。
しかし、それ以上にイェッドは本当に変な奴だった。こいつは何故かレイラの種族を知っていた。それは伝説の禍族だという。それは良いがこいつは、それを街中で大々的に宣伝しやがった。俺達は止めることも出来ず、大騒ぎになってどうなるかと思った。ところが魔導学校の校長が突然現れてレイラと共に消えてしまった。
俺達は何が起きたのかも理解出来ず、仕方なく魔導学校に行って入学手続きを取った。
「サダク、どうしたんだい?ぼ~っとして」
手続きが終わるとフムアルが俺に話しかけて来た。
「……フムアル?い、いや、何でもないぜ」
「ふむ、不安な気持ちも分かるけど何とかなるよ。学生を楽しもうじゃないかっ!」
「……そうだな」
「男子寮へ行こうよ。え~っと、こっちみたいだ」
「そうか……」
フムアル、違うんだ。俺はどうして入学手続きをしたのかと考えていたんだ。
俺はポラリスに寄った後は、そのまま何処かへ旅に出てしまおうと思っていたんだ。それが何で入学してしまったんだろうかって考えていた。
フムアルが街に入れなかったのを手伝ったから?フムアル達の流れに合わせてしまったから?
……違う、俺はレイラにまた会いたかったんだ。
校長に連れ去られたからレイラも、もしかしたら、ここ(魔導学校)に入学したのかもしれないと心の何処かで考えていた。何の根拠もない。馬鹿げていると何度も思った。
だから、しばらくしたら学校なんて辞めちまって旅に出ようとこの時は考えていた。




