サダクビア・スアリ・エクア
俺が生まれたのは大陸の西側に位置する三ツ目族の国だった。国名は「スアリ・エクア」、俺の名前は、「サダクビア・スアリ・エクア」。……つまり、これでも俺の家族は王家であり、しかも俺は長男、つまり、第一王子だった。王家には他にも年の離れた弟のスウドがいて、更に第二夫人には長女のプリマと、その弟のダビがいた。
端から見れば恵まれているように見える俺が魔導学校に通ってるのには理由がある。
この国では第一王子が国王になれるかと言えばそうでもなくて、国王が代わるとき闘技大会が行われ、優勝者が王になった。これは、国を守る奴はそれだけ強い奴じゃ無いと駄目だという、ここ(スアリ・エクア)特有の仕組みだった。
この戦いでは、死ぬこともあれば、無能者になることもある壮絶な戦いを強いられた。また、武器は何を使っても良かったが、三ツ目から発せられる念力が強ければ強いほど相手よりも有利に戦えた。
闘技大会で優勝した俺の親父、つまり、現在の王は、念力が恐ろしく強く、山を動かすほどの力があると言われた。この三ツ目の念力能力は親から引き継ぐため、一度王になるとその家系はしばらく王の座を守ることが出来た。そんなこんなで俺の家系は親父で五代目となり、長い間、王の座に鎮座していたってわけだ。
そして、俺の話。
三ツ目族は、ある程度の年齢になれば、三ツ目が開き、念力を使えるようになる。おふくろも念力の強い家系だったため、長男の俺は両親からも家臣達からも六代目として期待されていたんだが、俺のそれは全く開かなかった。
周りが焦り始めたある日、スウドが俺の部屋にやってきた。年齢差もあるからか、こいつは俺を慕ってよく遊びに来た。しかし、今日は様子がおかしかった。
「お兄ちゃん、変なんだ……」
「なんだよ、スウド」
「もう一つ何か見えるんだよぉ……、後ろも見えるときもあるし、気持ち悪いよぉ……」
「あっ!お、お前……み、三ツ目が……」
「えっ!ほ、ほんと?……い、痛っ!」
「バ、バカ、眼に指を入れる奴があるか」
「うぅ……イタタ……」
無邪気なスウドだったが、これは三ツ目が開いたことを意味した。
「み、見せてみろ……」
俺はスウドのそれを見たとき、絶望した。親父と同じ青い眼をしていたからだった。三ツ目族の二つ目は黒色だったが、その念力を示す三ツ目の青い者は相当な力を持っていることを示していた。しかも、その色は青に近いほど念力が強かった。
「お、お前、王の素質があるじゃないか……、よ、良かったな」
「ぼ、僕は王なんてやだよ、お兄ちゃんがなった方が良いに決まっているっ!」
スウドは、そう言ったが、しばらくしてこいつは強力な念力を発揮し始めて家臣達を唸らせ始めた。親父もおふくろもスウドを持ち上げ始め、みなが次期国王になるだろうと期待しているのがあからさまだった。それに合わせて俺の立場は無くなっていくのも分かった。ちやほやされる弟の裏で駄目な兄貴だの、役立たずの兄貴だの言われたい放題だった。
「サダクビア、お前はスウドを守るのだ。スウドは念力が高いが闘争心が弱い。それに近隣国との交渉などには向いていない」
「分かったよ、親父」
俺はそう答えたが冗談じゃないと思った。王族としては無用な奴と言われているようなもんじゃないか。
ある日、魔導学校の話を聞いて俺は親父に入学したいと相談した。予想通りすぐに了承してくれた。親父も俺への噂話を聞いていたんだろう。弟を守れとか言っていたが、つまり、ゴミ処理をしたいのだろうとも思った。
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入学日が近づき、俺は剣技を磨きながら旅をしようと徒歩で学校まで向かう事にした。
「お兄ちゃん、やだよぉ……。どうして行っちゃうの?」
城を出たところにスウドは待ち構えていて寂しそうな顔をしていた。朝日に照らされている三ツ目は綺麗な青色をしていた。
「修行のためだ。魔導学校では剣技も教えてくれるからな」
「ここでもできるよぉ……」
「いいや、ここで俺に勝てる奴はいないだろ?」
「そ、そうだけどぉ。お兄ちゃんがいないと寂しいよぉ」
「すぐに戻ってくる。また釣りに行こう」
「ほんとだよ、すぐだよぉ?」
「あぁ、新しい剣技を身につけて世界最強になったらな」
「うんっ!」
見送りはスウドだけだったのが全てを現している。別に城に戻るつもりもなかったからどうでも良いことだ。
「それじゃあな」
「う、うん」
手を振って道を進む俺の背中に刺さるスウドからの視線が痛かった。
申し訳ない、スウド……俺は逃げたかったんだ。
王家も五代目となれば組織も腐り始める。おべっかを使うアホな家臣達、こいつらは自分達の立場を守るために次の闘技大会で優勝しそうな者達を暗殺していた。だから、スウドは難なく次の王になれるだろう。しかし、優しいスウドがこいつらの傀儡になりかねない。
……それも分かっていた。俺は逃げた……、逃げたんだっ!!!……俺は駄目兄貴なんだ、スウド……。




