歴史と禍人形
学校生活が、しばらく経つと魔族達の、正確には種族間の喧嘩が増え始めた。
喧嘩は、容姿が変だとか、喧嘩を売ってきたとか、自分の食事を取ったとか、挙げ句は睨んでいたとか、私からしたらどうでも良い内容だった。
これもゲームでは無い設定だった、……もうゲームとかどうでも良いか……。
種族というか見た目が違うと結局、こうなっちゃうのかな。
この世界の歴史を勉強すると、どの種族が戦争で勝利したとか、支配したとか、負ければ数十万、数百万の魔族が殺されたとか、嫌になる内容ばかり。
これって何処かの星と同じだなぁって思った。
肌の色が違うだけで差別して、支配して奴隷として扱ったり。新大陸と言って元々そこにいた人達を虐げたり、狭い地域に元々いた人達を閉じ込めたり、自分達の権力を守るために宗教や言動を制限したり、何でそんなに差別するのだろうかって思った。
この星?は、地球なんかよりも多様だから喧嘩し合うのは仕方ないのかなぁ。アルラウネちゃんもトレント達を奴隷のように使っているようにも見えたしなぁ。トレント達の復讐なんてあるんだろうか。
ただ、ここ数百年は戦争は起こっていないらしく、それは魔王の存在が大きいと歴史の教科書に書いてあった。今の魔王はフムアルと同じ角族らしい。現在の魔王になってから世界は平和になって、戦争は起こらなくなって商業が盛んになってポラリスのような中心地も出来たと。称えすぎている気もする。
でも、どうやって魔王が決まったのか分からず、魔王ありきで歴史が書かれているのが変だった。歴史の先生に聞いても頭をひねってしまって答えられなかった。どういうこっちゃ?
それに魔王って何処に居るんだろ?この街の何処かに居るはず……?でも、お城みたいな建物は無いし……。あれ、違うのかな。ゲームだと何処にいたっけ?
はぁ~、にしても喧嘩がうるさいぞ!こっちは勉強中なのに。よりにもよってトロールとミノタウロスとか大きめの魔物達の争い。そもそも君たち戦士タイプでしょ?なんで図書室にいるのだ?
椅子が飛び交い、机も飛び交い、本も飛び交い、もはや勉強できる状態じゃない!!
「あぁっ!もう止めてっ!ここは図書室だぞっ!」
耐えられなくなって私は机を思いっ切り叩いて大声を上げ、立ち上がった。
「……あっ」
やばいやばい……。私はすぐに後悔した。
「あぁぁん?誰だっ!」
「どいつが言ったぁぁぁっ!」
自分の何倍もあるような魔物が凄い眼でこっちを睨んでいるぞ……。
「……お前か」
「禍族か……」
「……あ、あの……」
正直言うと……、私は死を覚悟した。筋肉隆々で凄い太い腕……、あんなのに殴られたら吹っ飛ばされて、本の中に埋もれて死ぬんだと思った。冷や汗も流れて足も震えた。
「……邪魔したな」
「チッ……」
だけど、二人とも喧嘩を止めて何処かに行ってしまった……ア、アレ……どういうこと???
周りの生徒達からは拍手されたけど、自分は何もしていないぞ。
後から聞けば、私の魔法で吹っ飛ばされるのが怖かっただの、凍らされるのがイヤだっただの、燃やされると思っただの、呪われるのも嫌だの……私は一体何者扱いされているんだよぉ。
しかも、この話はすぐに学校中に広まっていった。
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……その結果、争いが起こる度に呼ばれることが増えた。
喧嘩しているところに呼ばれて私が来ると、禍族が来たぞとか、悪魔が来たとか、悪の使者が来たとか、なんだか酷い言い草……魔物に言われたくない!
終いには禍人形なんてのも広がり始めた。……つまり、私の人形だけど……。ある日、ギエナがその人形を買ってきてくれた。
「買ってきたよ、レイラ人形。世間では禍人形って呼ばれてる。……で、でも、これ……、ぷぷぷっ!あははははっ!だ、駄目、これっ、傑作じゃまいか?見る度にお腹がよじれそうになるぅぅっ!!」
ギエナはツボにはまっているけど、この人形……ひ、酷すぎる……。
真っ黒なローブを制服の上に羽織っているまでは良いけど、顔怖っ、背中から変な棘?爪?が出てるし、もうやだっ!誰作ったのこれ?
「こ、これさ……ぷぷぷっ。すごく流行ってるよっ!色んなところに置いてあってさ。喧嘩しそうになると眼が……、あははははっ!眼が光るんだってっ!!!どういう仕組み?ほ、ほんとかな、これの眼が光るとかっ!!あははははっ!ヒヒヒッ……、む、無理……もう無理っ!!でも、喧嘩も止まっちゃうんだってっ!」
……私は複雑な気分になった。
「素晴らしい、信仰の対象にまでなったかっ!」
校長も意味不明なことを言い始めたし、私の周りは恐れをなして誰も近づかなくなったし……。お、乙女ゲームだったよね、これ?主人公だったよね、私?
「良いじゃ無いかよ、人形も……か、可愛い……し……ぷぷぷっ」
サダクは怖がらなかった。それだけが救い。だけど、笑うな~~っ!




