キュンキュンブーメラン
私は部屋に戻ると、部屋に掛けてあった制服を小さな炎の魔法と風の魔法を組み合わせた魔法ドライヤーで乾かした。おぉ、便利。魔法を使っちゃえば何でも出来ちゃうから、この世界は電気が無いんだろうなぁと勝手に思った。部屋の明かりも魔法ランプだし。
乾かしながら思ったけど、やっぱりゲームだとこんなイベントは無かったと思った。フィールドをテクテクと歩いて学校に戻るだけだった。大体、自分の汚物まみれになる乙女ゲームとか、あるわけがない!
そいえばサダクにも迷惑掛けちゃったなぁ。でも誘ってもらえて嬉しかった。男の子とのデート?アルバイトデートかな?あはは……。デートにしては危険だったけど、楽しかったし、あいつの格好良さったら……。そだ、三ツ目も開いて良かったなぁ。依頼主のエジテクさんに素直に謝ったあいつも何だか可愛かったなぁ。
あれ?私……サダクのことばかり考えている……。あいつのことを考えると、ちょっと胸が締め付けられる……、もっと一緒に居たいなぁ……、もっと話がしたいなぁ……。はっ!な、何を考えてるっ!!
コンコン……
「うおっ!」
急に扉をノックする音が鳴ったのでビックリした。
「お、おい、起きているか?」
「お、起きてるよ」
なっ!サダク!?
「ちょっと話さないか?開けて良いか?」
「……う、うん」
嬉しさで浮き上がっちゃった。サダクの声が愛しくて、もっと聞きたいって思った。
「入るぞ」
だけど、サダクが入る瞬間、私は凍り付いた……。
「はっ!?ままま、待ってぇぇぇっ!!!」
「あ、あぁ、ごめん。そうだよな……、迷惑だったよな……」
申し訳なさそうにしていたけど、違うぞ、サダク君。お、乙女の下着が干してあるのだよ!!
「ち、違うのっ!何が違うのかは、い、言えないけど」
「あぁ、例のあれか?」
いつものゲーム知識的な驚きでもないぞ、サダク君。
「そ、それも違うのだ。け、けれどもぉ?……と、ともかくだ。そ、そっちの部屋に行くからっ!!!待っててぇぇぇ」
「わ、分かった。部屋で待ってる」
「ふぅ~……。あ、危なかった……。よく気づいたぞ、私……」
ん?横で色々と片付けている音がする、私が行くからかな?……可愛い。
よ、よ~し、い、行くかぁ……。
制服に着替える?結構乾いたけど、まだ少し湿ってるかぁ。う~ん、オークワンピしかない!それ以前に下着無しが、ど、どうもなぁ……。
はぁ~、な~んでこんなに緊張するんだ……心臓がバクバクしている……。ゲームだとテクテク歩いてボタンを押して扉を開けるだけなんだけど。
「サダク、入るね」
「お、おう」
サダクの部屋は子ども部屋だった。おもちゃが沢山置いてあったからすぐに分かった。私の部屋のベッドはトリプルかってってぐらい大きかったけど、この部屋のベッドはオークにしては小さかった。うん、私達には丁度良いサイズかも。
「あ、エジテクさんのお子さんの部屋だったのかな?」
「多分な」
サダクはベッドに座って私の方をじっと見つめていた。
「な、なに?じっと見つめられると照れるじゃない」
「い、いや……、その服がさ……」
「あぁ、これ?私の部屋はエジテクさんの奥さんの部屋だったの。服は……その……あれだったから洗って乾かしている。だから、上着だけ借りたのよ。大きいから一工夫したんだけど、どう?」
くるっと回りながら、どう?って聞いたけど、何も反応してくれなかったらどうしようって思った。だって、食事の時だって何にも言わなかったし。
「……いいんじゃないか。ににに、似合ってる……。か、可愛い……」
ぬぉっ!?急に褒めるなぁ~!照れるではないか!てか、ききき、貴様も照れてる……のね。
「あ、ありがとう……」
「おう……」
何か急に愛おしくなって、私はそのまま何も言わずサダクの横に座っちゃった。
「今日は誘ってくれてありがとうね」
「あぁ、だけど、お前を危険な目に遭わせてしまった。すまなかった」
そっか、悪いと思っていたんだ。
「私の方もごめんね。ポンコツ魔道士だったから迷惑をかけちゃった」
「んなことは無い!お、俺がちゃんと守れなかったのが悪いんだ!だから、あんな……その……ゲ、ゲロまみれに……」
な、なにも言えん……。
「ぷ、ぷぷぷっ!あははははっ!しょ、正直、お前が臭くて臭くて……どうしよかって思って……あははははっ!ここに泊めてもらえて良かったよなっ!あははははっ!」
「な~、わ、笑うなぁぁぁ~っ!」
お、乙女の恥を笑いおって……。でも私も可笑しくなってしまった。
「……ぷ、ぷぷぷっ!あはっ!あははははっ!」
しばらくお互いに笑い合ったからか緊張がほぐれちゃった。
「もう、エジテクさんに怒っているときはどうしようかと思ったぞ」
「あぁ……、すまん。頭に血が昇ってしまった……」
「でもさ、ちゃ~んと謝ったでしょ?偉いぞっ!」
私はサダクの頭を撫でて上げた。あぁ、やっぱり三ツ目が開いてる。
「んだよ、ガキじゃ無いんだぜ?……なんだ?これが気になるのか?」
私が三ツ目を見ている事に気づかれてしまった。
「三ツ目、開いて良かったね」
「色んなものが動かせて便利になったんだ。ほら、見てくれ」
サダクは、目の前の人形のおもちゃを歩いているように見せた。
「おぉ!すごいっ!ねぇ、もっと目を見せて」
私はそう言いながらサダクの三ツ目の周りを触った。一瞬、目を瞑ったけどすぐ目を開けてくれてその青い瞳をじっと見つめた。見つめ合っていたら、その目に吸い込まれそうになって、サダクが愛おしくて仕方なくて……私は気持ちが抑えられなくなっていた。
「何か照れるな……あっ」
もうどうしようも無くて、気づいたらそのままサダクの肩に頭を置いていた。彼は黙ってしまった。ちらっと見たら顔を赤くしていて可愛かった。
「今日は私を守ってくれてありがと。格好良かったぞ……」
「お、おう……」
「凄く嬉しかった……。また誘って……」
「おう」
サダクは右手で私の肩を寄せてくれて、そのままキスをしてくれた。ドラマとか映画とかで見ていたけど、私がそれをするとは思ってもみなかった。でも、何だろうこの気持ち……。彼のぬくもり、彼の匂い、全てが許されているようでとても落ち着いた。
どれぐらいそうしていたのか分からないけど、さすがにサダクは疲れていたのか、そのまま眠ってしまった。私は彼をベッドに寝かせた。
「おやすみ」
サダクの頬にキスをすると自室に戻った……んだけど、ベッドに入って天井を見つめたら急に冷静になった。
「あ、あぁ、私は何をしてしまったんだぁぁ~~っ!……はぁ~、えへへ……、えへへへ~……、キュンキュン……えへへへ~……」
布団をかぶって頭を抱えてしばらく悶え込んだ。
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オークの家の上空から、これらをリモート映像として見ている者達が居た。
「せ~しゅんか~~っ!ハァッ……、ハァッ……」
「お、落ち着いて……、ギエナさんっ!そんなに揺れると落ちちゃうから……」
「これが落ち着いていられるかぁ~~っ!こっちがキュンキュンブーメランだっ!」
「ブ、ブーメランッ!?ど、どうしてっ!?」
「くぅぅ、えぇぇなぁ……、えぇぇがなぁ……」
「大阪弁ですか……。やっぱり途中で映像を切れば良かった……」
「駄目っ!それは駄目っ!」
「だって、これはプライベートだし……」
「そ、そうだけど。み、見守りたいじゃまいか~」
「いやはや、毎回これだもんなぁ。ギエナさんが喜んでくれれば良いのかな?」
「い~に決まってるぅっ!」
「はいはい……。さ、そっちに魔力テントを張ったのでお休みください」
「はぁ、眠れるかいな」
「大丈夫です。眠れます、ぐっすりと」
「んで分かるんだよぉっ!」
「なんででしょ?」
「???」




