パーティーのお荷物と虐げられても追放してはもらえない(元)荷物運びの受難
付与術士として、主人公シィモンは働いていた。
このパーティーのリーダーであるリーリエに振り回され、でも彼女には借金があるためその無茶振りは聞かないワケにもいかない。彼はしぶしぶサポートを続けていく。
メンバーの態度は誤解だったが…… そんな日常は呆気なく終わろうとしていた。
シィモンの付与魔法が上達したため、上位クラスに転職できるようになったのだ。
無自覚なモテ期のシィモンは、転職神殿のマゾ聖女、ギルドホールのショタコン受付嬢、付与術の腕前に惚れ込んだ無表情女剣士、キノコ好き美女薬師、宿屋の女将さん(未亡人)と、問題を次々と増やしてしまう。
これは、最初は不遇枠だったのに、徐々に天狗になっていく主人公が、癖の強いメンバーと一緒に強くなったりドタバタしたりするお話です。
注意:主人公補正がすぎるだろというネタが含まれています。ご都合主義表現が苦手な方は用法、用量をお確かめください。
「また…… レベルアップ出来なかった」
ダンジョン、そこは魔窟とも呼ばれる。
ここで冒険者は魔物を倒し、奥深くまで探索し、そうして集めた素材を街で売り、お金と宿と食事を得るのだ。
しかし、僕の成果は悪いから。
今日も昨日も、黒パンにクズ野菜とひき肉の入った塩スープが一杯。
味気もなにもないただの食事は、身体を持たせるためだけのギリギリで、本当は朝からガッツリお肉も食べたいのだけれど…… そんなコトができるのは余裕のある一握りの『上位』冒険者だけだ。
余裕があるから上位の冒険者は一日三食食べているし、ダンジョンの中でも保存食とか携行して最低でも一日二食は保ってる。
こんな黒パンと薄スープを一日一食だけしか食べられない僕は、冒険者としてもレベルが低く、探索技能も低ランクなんだ。
「僕だけ仲間とのレベル差があり過ぎる。はぁ……」
ボソボソに乾き硬い黒パンを、具の少ないスープで湿らせて柔らくして食べる。
いつもの食べ方で飲み込むだけの食事を終わらせると、隣の席から"からかい"と一緒に白パンが飛んで来て僕の顔に当たった。
《ばすん》
「むぐっ」
「コラ、辛気臭いゾ、シィモン。もっと食べなさいよ、ジャムもバターも恵んでやるから」
「や、施しなんて……」
「チーズもあげるよ、あ、飲み物がないからノド渇いちゃうか。あははははッ」
彼女は僕の所属する集団のリーダー、リーリエ・スコッティー。
彼女に誘われ、僕はこの職業『付与術士』を務めている。
元々は荷物運びだったのに。
魔力があるのは分かっていたけど、転職する元手がなくって。
付与術士になるならお金を出してくれる、って言う彼女に従ってしまった。
「ホラホラ、食べなよ~。もっと身体を鍛えなきゃ! 中層でへばられちゃ、いつまでもお宝に出会えないよぉ?」
「そうだぜシィモン。リーダーへの借金返すんだろ?」
「そんなの返さなくていいんだって。アタシの後ろで、付与魔法をかけ続けてく・れ・れ・ば♡」
そういうワケにはいかない。
でも、まぁ、頑張ってスープの具を豪華にするくらいはしたい。
「ちゃんと仕事はしてるでしょ…… リーリエにはスピードのエンチャント、他の皆には防御のエンチャントをかけてる」
「一種類ずつだけどなぁ」
「もっとも、リーダーの攻撃が早くて俺らに攻撃が届くコトなんざそうそうないんだが」
「違いない。バックアタック食らった時はあったけど」
「それもシィモンが付与術かける前にリーダーが終わらせてたもんな」
魔物を倒せば、経験値と呼ばれるエネルギーが手に入る。
他にも魔法使いなら呪文を唱えたり、剣士なら剣を振るって技を出したりによって貰えるモノなんだけれど、もちろん魔物を倒す方が貰える。
――そう、倒した人が、たくさん貰えるんだ。
だから本来、付与術士は剣士を兼ねていて、更に上位の職業『魔法剣士』になるためのステップ、普通はそうなのに。
彼女は…… リーリエは前線に出さしてくれない。
「僕だって、魔物を倒せば、もっとたくさんの魔法が使えるのに」
「ダメよ、シィモン」
そう、レベルアップの話になると、彼女はキツくなる。
いつもより、更に。
「あなたはそのままでいいの…… ずうっと、私の後ろで、ずうっと私だけを見ていてくれたら。必要な時に必要な魔法を、あなたなら的確に付与してくれる…… そうでしょう?」
「く、わかったよ…… 魔法だけじゃなく、アイテムも持たされてるのは、ダメージ管理もしろってことか」
「うふ、やっぱり多才じゃん。じゃあ、それも任せちゃう」
つまり―― 僕は飼い殺し、というか便利に使われる存在だと暗に言っている。
周りの皆もそういうリーリエの言葉にニヤニヤして。
このパーティーに、僕の味方は居なかった。
うつむくと、フワリと良い匂いが漂い…… 満たされていない腹の虫が鳴いてしまう。
《きゅるるる……》
目の前に、白パンとチーズが残っていた。
「あの顔、まだシィモン勘違いしたままだぜ」
「リーダー、ハッキリと告白しねぇから」
「うるさいよ、黙んな」
「ホラ八つ当たりだよ。勘弁して欲しいね」
僕は投げられた白パンの半分を割って、一緒に投げられたチーズを挟んで食べる。
このパーティーでは僕を仲間はずれにしてたまに変な会話をしているから、聞いていても理解らないので食事に戻った。
このパンは本当に、焼き方が違うだけじゃなく元々が別物みたいな美味しいパンなのだ…… 何せ、口の中が乾かない。
「もっ…… もぐっ、もっ、もふっ……」
さっきの黒パンは何か混ぜ物が影響しているらしいが、口の水分を全て奪いかねないシロモノ。
それが事実なのかは知らないが…… 白パンのかうまいのは確かだ。
「うふふ、シィモン、美味しい? ただより怖いモノはないのよ?」
「リーダーからの残念なお知らせだ。また風呂上がりのマッサージでもさせるんで?」
「それは前回のシチューの時に約束したもの。毎回マッサージするって」
「んぐっ、ちょ、毎回なんて言って……」
「今回のパンの分は、そうだなぁ、元荷物持ちの力を見せてもらおうか。買い出し付き合ってね」
またやってしまった…… 食欲に負けて。
施しを受けてしまえば、彼女は無理難題を吹っ掛けてきて、断ってもならばと細かな用事を申し付けるんだ。
だから、自分の稼ぎだけで食事を摂っていたのに。
しかし、買い出し?
今回は中層までしか行かなかった。
「消費したものは冒険者ギルドの小売り窓口で事足りるんじゃぁ……」
「あら、自分で言っておいて、見事に忘れてるのね。あなた専用のポーションバッグを買うのよ」
「うぐ、しまったそうか……」
「もっとも、そんなに大量の被害を受けないようにするのはアタシの仕事だからね。もしもの備えよ」
やっぱり我を忘れて食べてしまうんじゃなかった。
半分残ったパンを掴んだまま、僕の前でその豊かな胸を反らして微笑むリーリエに、苦虫を噛み潰すような表情を晒して。
「お金のかかるコトでも、私的なコトでもないでしょ?」
そう言われては抗う理由もない…… このパーティーのリーダーに従って、僕はこの後振り回されて食べた分以上に疲れるコトになるんだ。





