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15 諦められない想い

 ジェットに告白された。何度思い出しても顔が真っ赤になってしまう。


 ルチルは、長いため息をつきながら、クリュスタウラと言う名の球状をした石を、手の上で転がしていた。


 これは、王城内の一角にある貴賓をもてなす部屋の内装として使われる部材となる。キラキラ輝くたくさんの石を組み合わせて、オブジェのような形に仕上げられるらしい。貴賓室の装飾は年に四回に取り替えられるので、この資材注文が来ることで、また季節が一つ進むことを感じさせてくれる。


 ルチルは、クリュスタウラの一つを窓越しの光にかざした。透明度が高く、うっすらと内部が虹色に輝いている。この一粒で、だいたい庶民の年収一年分。その美しさと希少さから、宝石の一つとして数えられているものだ。


 そんなものを湯水の如く使うなんて、さすがは王城である。


 と、その時、クリュスタウラの粒の一つが濁っているのに気がついた。こういう物を見つけるための検品作業なので、いつもならば達成感で胸が満たされる。でも今日ばかりは、ルチルの顔も曇ってしまった。


「まるで、私みたい」


 輝かしい貴族社会が広がる王城の片隅で、せっせと汗水たらして働くルチルは、元庶民。いや、今もあまり貴族だという感覚はない。


「もし、私がちゃんとした貴族だったら」


 そうすれば、ジェットの告白を受けることができただろうか。胸がきゅっと痛んだ。


 目を閉じれば思い出す、ジェットの真剣な眼差し。ルチルに触れている時だけは、必ず目を合わせることができる。


 あんな人に好かれたかったのだ。夢にまで見たことが起こったのに、現実は残酷。ルチルには夫がいる。


 あのまま、彼から注がれる愛にまみれて溺れたかった。もっと若ければ、何も考えずに広げられた両腕の中に飛び込んでいったかもしれない。けれどルチルは、すっかり分別のついた大人なのである。


 幼い頃から考えていた。もし結婚するならば、好きな人とがいい、と。もう少し大きくなってからは、自分のことを好きになってくれる人がいい、と。


 でも結局、そのどちらも満たさない白い結婚が待っていた。そうして、ルチルは新たな身分を手にし、王城の資材部で働きながら生きる今がある。


 養父でもある上司のモリオンは、恋愛してもいいのだ、などとそそのかしてくることもあった。それには王の許可まであるらしいが、世間はきっと良しとはしない。浮気なんて、事実が存在しなくても、疑われた時点できっとアウトだ。なにせ、相手は英雄なのだから。


 しかも、ここまでして無理してしがみついた「女一人で生きること」を、今更揺るがすようなことはしたくない。だからルチルは、ジェットに本気になってはいけないと、自分に言い聞かせるほかないのだった。


――――誰かに愛されるなんて、妄想の中だけしか、求められない幻想なのよ。

――――今ちゃんと生きてるだけで幸運なのだから、我慢しなくちゃ。


 分かっているのに、悪足掻きのようにジェットのことばかり考えてしまう自分が、汚らわしくて情けなくて、でも切なくて苦しい。


 あの日、ジェットは悲しそうに瞳を伏せて、静かに『蔵』を去っていった。伯爵夫人だと明らかになった今、もうこれまでのように関わってくれないかもしれない。


 ルチルの手は無意識に、服の下に隠していたペンダントに触れていた。


 せめて、ルチルの本心や事情を話すことができればよかったのに。だが、あの事故の後は、すぐにセレナが駆けつけてくれたお陰で、伯爵夫人である以上のことを何も伝えることができなかった。


「家宝の珍しい石、お願い。ジェット様とのご縁を消さないで」


 ルチルは、強く、強く願う。


 しかし、いつもの如く、何も起こらない。変わらない。


 ◇



「検品が終わりました」


 ルチルはモリオンの私室へ、クリュスタウラの箱を届けにいった。モリオンは、信頼できる者にしか高価な石の鑑定をさせないことにしている。必然的に、ルチルが担当することが多くなっていた。


「悪いが、こっちも頼めるか?」


 ルチルがモリオンが指さした方向を見ると、「ペルレルラ」と書かれた札のついた箱がある。クリュスタウラ程ではないが、宝石の部類である石。乳白色のものから、黒色のものまでいくらかの種類があるが、札のカラーチップによると、今回は白銀のものらしい。


「かしこまりました」


 ルチルが恭しく頭を垂れると、モリオンがそこへ手を載せてきた。


「子ども扱いしないでください」


 ルチルが王城へ来たばかりの頃、貴族の一部から虐められたり、城のしきたりや貴族の常識を知らなくて失敗した時、よくこうやって慰められていた。


 最近はこんなことをされる機会なんて無くなっていたのに、急にどうしたのだろうか。ルチルは、少し不機嫌そうに頭を上げて、大きなモリオンの手を押しのける。


「今から騎士団の呼び出しに行ってくる」

「何かあったんですか?」

「分からない。物資の不備程度で部長が呼び出されることは、普通考えられないが」


 モリオンも心当たりがないらしく、言葉を濁す。


「とりあえず、最近『蔵』の中に鼠が入り込んでいるとの報告も受けている。駆逐に全力を上げているが、お前も身辺に重々注意しろ」


 鼠は、『蔵』内で使われる隠語の一つ。泥坊など、『蔵』に害をなす者を指している。


 ルチルも、先日ジャンクの落下事故に巻き込まれたばかりだ。素直に返事してモリオンを見送った。


 それから一時間後のことである。


「ルチル、お前を夫殺害の罪で捕縛する!」


 ルチルは、鋭い眼光の騎士達に、八方から槍を突きつけられていた。


書き溜めストックがなくなりました。

また書き溜めたら再開します。

よろしくお願いいたします。

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