表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/234

第092話 エリー王女とジェルミア王子

 レイの目に飛び込んで来たのはエリー王女だった。


 輝くオーラを身に纏うエリー王女は、会場内すべての人達を釘付けにし、美しさと愛らしさで皆が息を飲んでいた。


 かつてはあれほどに近くに感じていたエリー王女が、今は物凄く遠い。心臓は嫌な音をたて、レイは思わず目を背けてしまった。


 あの場所にはもう行けない……。


 その時、目の前に立つハーネイスの手が震えていることに気がついた。表情を確認しようとレイは少し横に移動する。すると直ぐにハーネイスの握り締めた手が解かれ、笑顔が作られた。


「サイラス、挨拶に行こう」

「はい……」


 ハーネイスとサイラスはゆっくりとエリー王女に近づく。


「エリー様、お久しぶりですね。お誕生日以来ですから四ヶ月ぶりでしょうか」

「ハーネイス様。本日は足をお運びいただきましてありがとうございます」


 エリー王女は花開くような笑顔で応えた。とても仲の良い叔母と姪のように会話が弾んでいく。


「サイラス様もありがとうございます」

「色々と噂は聞いているよ。悪意を持つものは見えにくいから気をつけて。では私はこれで……」


挿絵(By みてみん)


 サイラスは直ぐにその場を離れた。


「気を悪くしないでくださいね。こういう場はあまり好きじゃないみたいで」

「いえ、お会い出来ただけでも大変嬉しいですので」

「そう。レナ様のようにお優しいですわね。その笑顔も何もかも似ています」

「母に……。あの、ありがとうございます」


 エリー王女は嬉しそうに頬を染める。


「ふふふ、あまりエリー様を独占しては他の人に申し訳ないわね。それでは、私も失礼いたします」

「はい、後でまた私からご挨拶に伺います」


 ハーネイスは固まった笑顔のまま人ごみの中に消えていった。

 レイは直ぐ近くでアランが気を張っているため、気配を消して静かに後に続く。

 前を歩くハーネイスからはピリピリとした空気が流れてきた。まるで怒りで空気が震えているようだ。




 ◇


 ダンスの時間。

 最初に踊るのはエリー王女とジェルミア王子であった。腕を組み中央まで歩みを進め向かい合う。ぐっと体を寄せ合うと音楽が奏でられた。優しい音楽の中、流れるように踊る二人。


 絵になる二人の姿に一同が感嘆の声を漏らす。


挿絵(By みてみん)


「最近、あのお二人は毎日仲睦まじく一緒に過ごしているらしいですわ」

「もしかしたら、エリー王女はあの方に決められるかも知れませんね」

「噂では決められたとも聞きましたよ」

「ジェルミア様でしたら何も迷うことはないですものね。とてもお似合いだわ」


 ひそひそと話し声がレイの耳に入ってくる。確かにお似合いだ。二人を見つめ、そう思うとレイの胸は切り裂かれたように痛んだ。

 あれから今までに一体何があったのだろう。

 見詰め合う二人の間には以前のような距離を感じなかった。


 ドクドクと心臓が勝手に早足で駆ける。


「エリー様って思っていた以上に美しいね。……あれ、シリル。顔色が良くない。大丈夫?」


 どんな表情でみていたのだろう。心配したギルが顔を覗き込んでくる。だけどそれに応える気にはなれず、ハーネイスへ視線を移した。表情には変化がないが、手が微かに震えている。




 もしも、ハーネイス様がサイラス様を王としたいと考えているのなら、ジェルミア様との婚姻が進むのは快く思わないだろう。




「ジェルミア様と……」


 二人が結婚することを想像してしまい、闇に放り投げられたような気持ちになってしまった。取り残されたような不安が襲ってくる。

 今すぐ駆け出してエリー王女を奪い返したかった。


「シリル、本当に大丈夫?」

「いや……うん。大丈夫」


 込み上げてくる涙を堪え笑顔を作ったが、ギルの表情は固かった。


「無理……しないで」


 ギルがレイの肩を叩き、困ったように笑った。

 その時、ハーネイスからお呼びが掛かる。


「帰る。馬車の用意を」

「はい、では私が」


 ギルが素早く外に駆けて行った。

 このような華やかな場所を好むハーネイスがもう帰るとは珍しい。よほどこの場所に居たくないということである。


 レイもあまりここには長く居たくないと思っていたため、正直ほっとした。

 振り返ると、エリー王女が楽しそうにダンスを踊っている姿が見える。


「これでいい……」


 レイは自分に言い聞かせるように小さく呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ