これは世界を救う七英雄のお話。えーと、サブタイは可憐な魔法少女の冒険ってことで!
【世界を終わらせる終焉の魔王。これを倒す者達、瞳に星を宿す真の騎士なり】
この国の聖女として生まれた私――シェリカ・ロティエル。
ある日、女神から告げられた予言が自分の運命を変えていく。
騎士様と一緒に魔王を倒す冒険に出るなんて、まるで物語のヒロインみたいだよね。
なんだけど。
「こんなに平和な世界なのに。魔王なんてホントにいるの?」
「女神の予言だから間違いないニャン」
「そうなんだけどさぁ。まぁ、教会の外に遊びに行けるからいいけどね」
「遊びじゃないニャン。お仕事ニャン」
外へ出た私は、何故か周囲から魔法少女認定されちゃった。
しかもこの世界には、大きな秘密もあったみたいで……。
――これは、七人の騎士と七人の聖女が、未来を紡ぐための冒険物語です。
祈ることしかできないから。
奇跡を願うことしかできないから。
胸の前に組んだ両手にぎゅっと力をこめる。
この世界の果て。
真っ暗な空と赤く荒れた大地の上で。
私たちは、魔王と対峙していた。
周囲の光を全て吸い込んだような漆黒の長いマントに、身長よりはるかに長い大きな剣。
彼が剣を振るうたびに、空間にひびが入っていく。
周囲の風景が、ガラス細工のように音を立てて壊れてるんだ。
「さぁ見せてみろ、お前たちの力を。世界の崩壊を止めてみるがいい!」
運命に選ばれた七人の騎士様が、魔王の前でゆっくりと武器をかまえていく。
七人の聖女は、それぞれの騎士の為に祈りの言葉を紡いでいた。
私も、私もね。自分の全ての魔力を注いでいく。
この祈りは世界のためなんかじゃなくて。
そんな大きな願い事じゃなくて。
ただ……貴方の無事だけを想って。
「大丈夫だよ、シェリカ。必ず……アイツを倒すからさ」
庇うように盾を構えていた黒髪の青年の声が、耳に届いた。
いつもの優しい声色に、胸の奥が熱くなるのがわかる。
大丈夫。
大丈夫。
きっとあの魔王を倒して……世界を救って……。
幸せな日常が戻ってきて……。
そして貴方と……。
次の瞬間。
目の前の世界が真っ赤になって、何も見えなくなった。
*********
「おまたせしました。ご注文のイチゴパフェでございます」
……。
…………。
あれ、えーと? え?
店員さんの声と甘い香りで、ゆっくりと目の前の景色が戻ってくる。
白を基調としたパステル風の賑やかな店内。
楽しそうなお客さん達の声。
テーブルの上に置かれた美味しそうなイチゴのパフェ。
「はぁぁぁぁ、ウソでしょ……もうもうもう!」
私は頭を両手で押さえながら、大きなため息をついた。
カフェの中で夢を見るくらい居眠りするとか……とか。
しかも中身が英雄談風とか、ホント子供っぽくて恥ずかしすぎる。
……まぁ、いっか。
……しょせん夢だもんね。
今はそれより。
「美味しい~。やっぱりこれだよね、これ!!」
んー、口の中に幸せが広がっていく。
この店おススメのイチゴパフェを頬張りながら幸せをかみしめる。
はぁぁ。これそ、世間一般の女の子ってやつよね。
ふとグラスに映る自分の姿が目に入った。
胸元には、教会の紋章を隠すように大きなリボン。
ふわふわフリルの白いケープ。
髪はツインテールにして胸元とお揃いの赤いリボンでまとめている。
うんうん。
普通の街の人っぽいし、バレないでしょ。
「ちょっと、シェリカちゃん。お仕事を忘れてないですニャ?」
「しーっ、わかってるわよ、タルト。人前でしゃべったらダメだからね」
「同じ声なんだからバレないニャン。シェリカちゃんが独り言いってると思われるだけニャン!」
テーブルの上から声をかけてきたのは、手のひらサイズの黒猫のぬいぐるみ。
聖女である私の魔力で動いてる、私の分身なんだけど。
なんでこんなにおしゃべりなんだろう、この猫。
「仕事ねぇ……」
私は、カバンから小さなメモを取り出した。
【世界を終わらせる終焉の魔王】
【これを倒す者達、瞳に星を宿す真の騎士なり】
なんど読んでみても、意味が全然わからない。
予言っていってもさぁ、もうちょっと説明があっても良いと思うんだけど。
終焉の魔王っていうのも誰のことよ、ホントに。
すごく平和なんですけど、世界!
「シェリカちゃん、頑張って真の騎士を探すニャン!」
「はぁ……タルトさぁ、この世界にどれだけの人間がいると思ってるのよ……」
やっぱり、他の国の聖女様に期待しようよ、うん。
私はこのまま、探してるふりして外の生活を満喫するってことで。
あらためてスプーンでパフェを救おうとした時、突然、店内に大きな声が響き渡った。
「困ったなぁ。ねぇ、誰か! この人の言葉わからないかなぁ?!」
今の、リーゼちゃんの声だよね。
そういえばここでバイトしてるんだっけ。
「ゴメンね。何をしゃべってるか分からないんだよねぇ」
『この街の泊まれるとこを教えて欲しいんだけど。まいったな、異世界って言葉も通じないのか』
――聞いたことある響き。
これって。
ワコクの言葉だよね。
はるか東の海に浮かぶ小さな島国。
神秘の国ワコク。
「あの店員、シェリカちゃんの幼馴染ニャン? 助けにいかないのかニャン?」
「うーん……」
「ほら、人々が困ってることを助けるのが聖女だニャン!」
「ちょっとちょっと。そんなこと、誰が決めたのよ……」
んー……。
でも。
『もしかしてお困りですか?』
自分でも、どうしてかわからないんだけど。
机の上にいた黒猫のタルトを抱きしめると、声のする方向に向かった。
まるで。
そうすることが当たり前みたいに、身体が自然に動き出したから。
**********
お店の入り口付近で、少し人だかりができていた。
輪の中心にいるのは、金髪美人な自慢の幼馴染、リーゼちゃん。
もう一人は……見たことない不思議な恰好をした、男の人。
少し長い黒髪と、吸い込まれそうな黒い瞳。
首から長い帯のようなものをスカーフのようにさげてる。
仕立てのよさそうな紺色のジャケットの胸には、見たことの無い紋章。
でも……あれ。
なんでだろう。すごく懐かしいような……気がする。
『あの、ワコクの方ですよね。私でよければ通訳しましょうか?』
『……え、ニホンゴだよね、それ? って、うわぁぁぁぁ』
『うわぁぁ?』
私、そんなに驚かれるような恰好なんてしてたっけ?
おもわず、自分の姿を確認する。
黒い修道服のスカートをくるくるっと折って短くしてあるんだよね。
その分お腹の付近が少し膨らんじゃったけど、もともとがゆったりしてるし。
オシャレには変えられないかなぁって。
かなぁって……。
思ったんだけど……。
や、やっぱり太って見えてたの?
それか…………スカート短すぎた?
教会にあった流行りの書物を見て、頑張って勉強してきたのに!!
『ち、ちがうんです。これはそう! ベルトで留めてあって、ですね!!』
『え、いや、大好きなアニメのヒロインに似ててたから、驚いただけで』
不思議な言葉をしゃべってるけど、やっぱり変ってことだよね。
だよね!!
私は慌てて長さを調整していたベルトの金具を外すと、思い切り引っ張った。
「シェリカちゃん、それはまずいニャ!」
「えいっ!」
次の瞬間。
目の前にスカートの布がぶわっと目の前に広がった。
……今。
……今ね。一瞬、太ももの付近まで風を感じたかなぁ。
…………。
「そんなにいきなり降ろしたら、裾が広がって当然ニャ………」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ。
消えたい。
消えたい。
消えたいんですけど!!
今すぐこの場から消えてしまいたい。
私は頭を抱えて、思い切りその場にしゃがみこんだ。
「アンタさ。仮にも聖女なんだからさ。もうちょっと恥じらいってもんをさぁ」
「ちょっと、リーゼちゃん! なに大きな声で秘密暴露してるのよ!」
「あはは。でもさ、こいつも人前で思い切りしゃべっちゃってるしさぁ」
いつの間にかカウンターに移動してた黒猫の人形が、彼女になでられてゴロゴロいっている。
「大体。今この店に来てる人は、みんな知ってるわよ」
「そんなはずないじゃん! お忍び任務なんだから!」
周りで真っ赤な顔で目を逸らしてる人たち……。
なんだか、教会の聖騎士さんとか、司教さん達に似てるんだけど……。
気のせい……よね?
だよね?!
『ねぇ、大丈夫?』
『……え?』
うずくまっていた私の目の前に差し出された、大きな手。
見上げると、黒髪の青年が甘く優しい声をかけてきた。
教会に飾られた胸像のような美しい顔立ちに、無邪気さが残っているような笑顔。
なんでだろう。わからないんだけど。
心が潤されていくような不思議な気分になって。
自然に、彼の手をとって立ち上がっていた。
『あ、ありがとうございます』
『君さ、もしかして……』
熱いまなざしで見つめられる。
どきどきする胸を両手で押さえて、彼の次の言葉を待った。
『魔法少女……でしょ?』
…………。
え? 子供向けの絵本のヒロインだよね、それ。
『もしかしてナイショだった? そのカワイイ姿で、お約束のマスコットの黒猫。おまけに変身までしたしさ』
耳元に顔を近づけて、そっとささやいてくる。
吐息が顔にかかって少しくすぐったい。
わわわわわ。
ていうか、顔が!
顔が近いんですけど!!
あわてて両手でさえぎろうとした瞬間、指の間から不思議なものが見えた。
――重なり合った瞳の奥に、星にようなきらめきが映ってるよね?
『どうしたの?』
『う、ううん。なんでもないです』
まさか、もしかして。
彼が……。
終焉の魔王を倒す者。
瞳に星を宿す真の騎士なの?
「なになに、二人で見つめあっちゃって。もしかして……彼が、探してた運命の人ってやつ?」
「ちょっと、リーゼちゃん! そういうのじゃなくて予言なんだってば!」
黒猫のタルトがカウンターからぴょんと、肩に乗ってきた。
「再び運命は巡るニャ。今度はきっと……」
「ん、タルト今何か言った?」
「なんでもないニャ」





