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自堕落お姉さんとダンジョンコア ~筋肉を添えて~

下っ端エンジニアお姉さんは夏の暑い日にダンジョンコアの少女を拾う。筋肉と頭脳で攻略する冒険者達を見物する。少女はお姉さんに見て見て面白ーいという。お姉さんは民明書房ネタで騙り出す。そしてご飯を美味しく食べる話。

「ドラゴンが出たぞ!」「俺が行く!」「いや、俺だ!」


 男達は大砲の中に飛び込むと手をついて砲口ごと体の向きをドラゴンに向けた。


「私が1番ノリだ!」


 飛んだ。それはまさに笑う筋肉の弾丸だった。



「ねぇねぇ、見て~。筋肉が空を飛んでいるよ~」

「はいはい」

「あれは何?」

「あれはね」


 狼蹴斗孟(ロケットマン)

 古代中国、戦国時代において王安石が用いた戦術。王安石は堀深く壁高い難攻不落の朱元を落とすために大砲に罪人を詰めて城内に侵入させたという。死んで腐れば毒となり、処刑の手間も省ける。また罪人が首級をあげれば功労に応じて罪を減らし、場合によっては報奨も出すと言ったところ、驚くべき事に罪人上がりの将兵が少なからず出てくる事になった。そして報酬に目が眩み武術の達人も参加する有り様となった。この大砲の衝撃により全体の八割を超える人達は全身を強く打ち死亡した。しかし残る一割は勢いのままに敵陣を食い破り程々で帰還するのだった。そうして生き残り報酬を稼ぐ彼らの事を狼蹴斗孟と呼び、敵味方問わず恐れられたらしい。


「へぇー! そうなんだぁ!」

「嘘だけどね」

「ガーン!!!」




 それは暑い夏の日だった。私は公園でフラフラしていた少女を人通りが見える木陰に連れ込み、お酒の酔い覚まし用に買ったスポドリを渡した。熱中症がやばそうなら救急車を呼ぶべきだろうと思ったが、見た感じ少しバテている程度で少し休めば回復しそうだった。


「そこな、少女。日本の夏の陽射しは厳しいぞい。わしの若い頃はまだセミも昼に鳴いておったが今じゃ朝にしか鳴かん。大人しく部屋の中でゲームしておくんじゃ」


 少女の近くに座り呼吸が正常になっていくのを確認した。

 木々は夏の日差しに負けて少し葉がヘタれている様子だが、それでもアスファルトの上などの他の場所よりかは断然涼しい。

 顔の火照りが治まっていくのを見て、大丈夫そうだと思ったらどうでもよくなった。世の中汚い恰好のヤツが子供を気に掛けると通報される可能性がある。


 それにしても朝に飲むお酒は美味い。世間一般の人が働いている中、夜勤明けの公園でワンカップを呷ってやばい目をしたまま帰るのはなんか楽しい。

 狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり? いいんだよ、どうせ狂っているんだから。狂った世の中正気を保って生きていけるかい。

 押し付けられた仕様書と実際組まなければいけないシステムの違いとか、日本語が通じそうで通じない連中と日夜取っ組み合っているんだ。化粧で誤魔化せなくなったこの隈どうしてくれる?


 浮世で稼がねば生きられん。世の中は酒と肉だ。

 野菜食ってオホホとかいう世界は性に合わんし、スポーツとかで目を輝かせている世界もちょっと引く。

 私には泥土に塗れて酒を食らうのがちょうどいい。物理的な泥土はさすがに遠慮したい。うら若き乙女が垢に……おいそこ。若くないって言ったヤツはどいつだ?


 とにかく華やかな世界はボッチにツラい。自分の孤独を意識させられるから。

 人を内側に抱え込む事が出来ない、群れる事も出来ない私の様な小物には特に。

 泥の様に重い疲れを抱え、自虐と共に飲む酒は何故か美味い。


 通勤列車に乗り込む会社員が光を放って見える。

 ほんとはあちら側で綺麗に生きていたかもしれない。

 いやムリか。私はおべんきょうが得意なだけのコミュ障だし。


 というか暑い。それにしても暑い。早く帰ってシャワーを浴びて寝よう。

 エアコンガンガンに利かせて、扇風機の前で髪を乾かそう。

 髪質だけはまだいいのが救いか。何が幸いしているか分からないけど。




 玄関でシャツに手をかけ、風呂場に到達する頃にはマッパである。

 玄関すぐそこにお風呂がある狭い部屋だ。一人暮らしは堕落の近道。

 他人の目がないからどこまでもふざけた生き方が出来るというモノ。


 汗でべたつく服などさっさと脱ぎたい。脱ぎ捨てたい。

 玄関に置いてあるエアコンのリモコンで室温を26℃に変更。

 湿気がきついだけで暑いのは得意なんよ。

 環境に配慮したわけじゃなく、冷え過ぎるとお腹が痛くなるからこの室温。


「……ぬる」


 屋上の貯水タンクが日差しに熱されているのだろう。

 シャワーから出た水に手をさらしてみたが冷たくなかった。

 推測40℃。もしかしたらもう少し高いかもしれない。


 まぁ、温かいシャワーを浴びたいからいいんだけどさ。手に触れた水がぬるいとなんか気持ち悪い。陽だまりとかで腐った水を想像してしまうからかもだけど。

 頭からぶっかけて手櫛で髪を梳く。頭皮にお湯がしみていく感じが気持ちいい。

 ブラシを使ってより細かく梳いていく。こうやってお湯で落ちる程度の脂や埃とかゴミを落としていく感じが気持ちいいんだわさ。


 ……健康な人でも頭髪は1日に50本から100本抜けるという。

 排水溝の手前にセットしたネットに溜まる髪の毛を見て微妙な気分になる。

 出た時に捨てれば汚くないからやる。コバエやチョウバエは見たくない。


「お姉ちゃん、髪の毛ってこうやって洗うの?」


 ……。


 ……。


 ……。


「少女よ。知らない人の家に勝手に入っちゃいけないんじゃぞ?」


 顔を見た感じ、公園の時の子だ。


 え、いつ入った? 家に入る時カギ閉めたよね?

 後ろ手に閉めたはず。もしかして足元に一緒にいて気づかずに?

 酔っぱらって気づかなかった? スポドリあげた分私の方が水分不足で注意不足?


 分からない。分からないがやばい。

 未成年略取の罪になる。なんでこうなった?

 どうしたらいい? というかお風呂に裸でいる時点で事案。


「お姉ちゃんは私を助けてくれたの。だから契約者になってほしいな」


 それはお縄になり、警察でハンコを押すという契約かな?


「とりあえず体を乾かしてから詳しい話を聞こうかの」


 裸で話していたらいくら夏でも風邪をひくからね!


 おじさんじゃなくて良かった……。

 私がおじさん、もしくは少女がおじさんだったら事故していた。

 事故すなわち犯罪。性犯罪者の烙印を押され人前を歩けなくなる。


「分かったー! ねぇ、お姉ちゃん髪の毛洗ってー!」


 あ、この子、陽キャだ。間違いない。光が。光が強い。


「あー、はいはい。頭出しなさい」


 シャワーのお湯を頭頂部からゆっくりかける。

 水流は弱め。少し手のひらにお湯をためて髪の毛にゆっくりなじませる。

 髪質は柔いが細い。ちゃんとケアされている子の髪の毛だ。

 両親が心配しているのは間違いない。早いところ名前とか聞いて家に帰さないと。


「気持ちいい~」


 呑気かな。このくらいの年齢の子なら周囲が怖くて仕方がないと思うんだけど。

 いや、周囲の人が基本的に優しかったのかな? だとしたらよく知らない人も優しいと勘違いしてしまう? 分からないな。

 少なくとも愛されて育った子だろう。あれ? これ、なんだろう?


 頭皮に指を当てると丸いガラス質の2センチ程度のそこそこ大きな突起が何か所かある。そこに指を当てるとむずがゆいのかキャッキャッとこの子は笑う。

 痛くはないみたい。それにしてもこれはなんだろうか?

 シャワーを当てつつ髪の毛を持ちあげてみると目が合った。


 目が合った。


 見なかったことにしよう。


「お姉ちゃん」


 圧を感じる。


「何かな? 少女よ?」


 うさんくさい爺さん調を動揺隠しに使ってしまう。幼子との話し方など知らん。


「私、人間じゃないんだ」


 目玉がそこにあるとは私も思っていなかったよ!


「そうなんだ?」


 対応に困る。しかしここで逃げるのはこの子を傷つける事になるだろう。

 それは私としては不本意であるし、考えてみればこの子が何かしたわけじゃない。

 子供を傷つけるのは汚れた私がしていい事ではない。


「どう思うの?」


 私は基本的に壊れたモノである。

 人間不信だし、汚いところでこそ本領を発揮出来ると思っている。

 剥きだしの人を見て、浅ましい自意識を慰めてすらいる。


 こんな薄汚れたヤツが人間じゃない事で悩むような可愛い子を傷つけていいのか?

 そんなわけがないだろう。むしろ人間性を見れば私の方こそヒトデナシだ。

 たかが頭に目があるくらいで何だというんだ。かっこいいじゃないか。君こそオンリーワンだ!


「いいんじゃない? かっこいいじゃん」


 成長したら厨二病マインドにむちゃくちゃ刺さるフォルムじゃん。

 間違いなくボスキャラ。少なくとも強敵なのは確実。

 マンガとかでボスキャラでいたと思う。包帯とかで覆ったりしてさ。


 というか実の所便利なんじゃない? 触った感触、硬質だったし複眼っぽい。

 複眼とかと同じ仕組みで行くなら虫の脳と同じくらいであっても対応できそう。

 それなら脳の処理能力も大して使わないのに死角も少なくなるだけでいいよね。


 注視しないといけないモノは2つのカワイイ瞳で見ればいいわけだし。


「お姉ちゃん、私のお姉ちゃんになってダンジョンを作ろ?」


 とりあえず何を言っているかよく分からない。


 まぁ、これが私、向野(むかいの)佳那(かな)とダンジョンコアの少女の出会いだった。


「ちょっと寝てからでもいい? 少し考えてからにしたいな」

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