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貴方は私のドッペルさん

捜索メモ


田中玲

緑川学院大学社会学部メディア学科二年中退

当時20歳

20××年9月12日に会ったのが最後←本当に田中だったか?

退学届けを出しに来た田中に会ったが、いつもと違う気がした。あのあとすぐ音信不通になった。


親には退学の連絡があったが、様子がおかしかったらしい。

仲のいい三人の姉には一切相談なし。現在まで連絡も一切無い。

メインのバイト先には退職届けを出していたが、他のバイト先には一切連絡はなかった。


20××年8月以降、都内で女装姿の田中に似た男性の目撃情報複数あり。

しかし、情報のみで、また田中本人か別人なのか不明のため、現在調査中。

 ここ最近、ずっと誰かに見られている気がする。ねっとりとした嫌な視線を、いつ何処にいても感じて気味が悪い。


「おい、田中。また何か視線感じるって怯えてんのか? 」

「いや、怯えてはいねぇよ!ただ……、今日もずっと見られてる気がして仕方ねぇんだよ 」

「こうなるとさ、おばけかなんかじゃねぇの?お祓い行けよ 」

「もう行ったわ 」

「ワァオ!マジか 」

「マジマジ。やっぱ気にし過ぎてるだけなんかなぁ…… 」


 おでこに大きなほくろがあるというコンプレックスを抱えていた僕は幼少期から他人の視線を気にして生きてきた。きっかけは二歳年上の再従兄弟につけられた『カレー』というあだ名。別に好きな食べ物でもなんでもないのに、ほくろの位置と顔の彫りの深さでそう呼ばれるようになってしまった。更に最悪なことに近所に住んでいたため、幼稚園、小学校、中学校と同じところに通うことになり、そのあだ名が広く知れ渡ってしまったことだ。僕は何度ほくろで弄られて、その度に消し去りたいと自らハサミで傷つけて絆創膏で隠したことか。高校に上がると一番上の姉さんの教えでコンシーラーとかいう化粧品でほくろを隠すようになるのだが、それまでのことがあり、大学生になった今でも他人の視線が気になって仕方ない。

 けど、今回のは何か違う気がする。ずっと監視されているような……。


「あ、ほら、いたいた!菊田くん!田中くん! 」

「香奈ちゃんに理恵ちゃん。急にどうしたの?学園のマドンナから声かけられるなんてさぁ、俺、勘違いしちゃうよ? 」

「あはは、菊田くんおもしろーい。いや、私がっていうか、りえちーが田中くんに確かめたいことあるんだって。ほら、こないだ駅前で見かけたときのこと聞きたいんでしょ? 」


 中村理恵さん…、同じ学科だけど、全く話したことない彼女から一体なんなんだろう。


「あの、こないだの日曜日、光が丘学園前駅でメイド服着た田中くん見かけたんだけど、あれ、かなりのクオリティだったから既製品なのか、手作りなのか知りたくって…… 」


 ちょいちょいちょい待って!!僕がメイド服?いやいやいやいや、前提として女装すらしたことないって!!


「え、田中くん、そういう趣味? 」


 僕は杉田香奈さんの問いに大きく横に首を振って否定した。


「ねぇ、理恵ちゃん、それ、何時ぐらい? 」

「映画館から帰る途中だったから夕方の五時ちょっと前だったと思う 」

「じゃあ、それ、別人だわ。その日、田中には俺のライブの手伝いを昼間からしてもらっちゃっててさぁ、結局片付け含めて終わったの夜九時は過ぎてたし、それに会場も上滝沢だし距離的にも無理だからさ 」


 菊田ナイス!!そうだ。こないだの日曜はコイツのバンドのライブがあるからって手伝わされていた。まぁ、ライブハウスの空気は嫌いじゃないし、バイト代も出たから、別に不満はないんだけど。


「いや、でも……、あれは絶対に田中くんだったと思うの。めっちゃ背高かったし、この顔だったもん……。他におんなじような人がいるとは思えないんだけど…… 」

「理恵ちゃん、それってもしかして、田中の姉さん見たんじゃね?結構クリソツだぜ? 」

「え、田中くん、双子のお姉さんいるの? 」

「いや、双子じゃないけど、おんなじような顔の姉が三人いる 」


 すると、杉田さんと中村さんは二人して顔を見合わせると、僕に向かって謝りだした。


「「勘違いしてごめんなさい!! 」」

「いや、そんなペコペコ謝らなくていいよ。っていうか、姉の誰かが年がいもなく、そんな格好してたのが悪い。一応、後で連絡入れて聞いてみるから、明日授業の合間に教えるんでいい? 」

「うん、それで大丈夫。何かごめんね 」

「じゃあ、また明日ね?りえちー行こ 」


 二人の美女はそういうとそそくさと学生ラウンジから離れていった。


「これでよかったのか?田中。一番上以外の姉さんは地元にいるんだろ?それに一番上の姉さんはちっちゃいじゃねぇか。理恵ちゃんが見たメイド服のお前のそっくりさんとは違うってなると思うんだが 」

「でも、日曜日ずっと一緒だったろ?他どういう説明しろっていうんだよ。実際、二番目の姉さんが婚活しにこっち来てたかもしれねぇし 」

「いや、ドッペルゲンガーの可能性もあるじゃん?でも、まぁ、二番目のアニオタの姉さん説が濃厚か 」


 ドッペルゲンガーか……。出会うと死ぬとかそういう都市伝説しか知らないが、何となく似ている人間なんて世界中探せば一人くらいはいるだろうからそういう迷信的なものは信じてはいない。

 おばけも実は信じてなかったが、あまりにも気持ち悪い視線を感じていたので気休めの為、お祓いとかお清めとか色々試してみた。でも、やっぱり一切効果はなかったようだ。今もジッと遠くから誰かに見られているのを感じる。


「田中、大丈夫か?またか?顔色悪いぞ 」

「あー、悪い。先に寮に帰るわ。六時限のドイツ語、どうにか誤魔化しといて 」

「了解。どうにか出来なくても許してちょ 」

「菊田なら大丈夫!じゃ、よろしく 」


 菊田と別れ、一人、寮に戻ろうとした。しかし、ここで僕の記憶は途切れてしまう、()の手によって……。






 目を覚ませば、薄暗い灰色の天井の部屋にいた。身体を起こし辺りを見まわせば、まるで収容所のような檻に入れられていた。


「ここは…… 」

「おはよう、田中玲くん。やっと貴方とこうやって話せる機会を得られて、私は今最高に興奮している 」


 姿は見えないが、声が檻の向こう側から聞こえてくる。


 僕はそっと檻の柵の方に近づき、声の正体を見ようとした。誰か人がいるのはわかるが、薄暗いせいか、顔まで確認できない。でも、この男の声、聞き覚えがある。何処でだ?


「ずっと、ずっと前から貴方が欲しいと思っていたんだけど、準備に手間取っちゃって、お迎えがこんなに遅くなっちゃった。でも、今、ココに貴方がいる。それだけで、今までの時間が無駄じゃなかったんだと幸せを噛み締めてるよ 」

「さっきから何を言っているんだ?僕をこんなところに閉じ込めて一体何を? 」


 僕はそう彼に問いかけつつ、変なことに気づいてしまった。檻の向こうにいる男の声が僕そっくりだということに。

 コツリコツリと音を立てて、こちらに近づいてくる彼に、僕は思わず檻から離れ、距離を置くように壁側に逃げた。


「貴方はドッペルゲンガーを信じている?私は信じていてね……。よく、出会ってしまったら死んでしまうとか、殺されてしまうとかいう話を聞くけれど、私はそうじゃないって実証させたいの。だから、()()()()()()()()()である貴方に協力して欲しいの。ね?いいよね、田中玲くん 」


 ゴシックロリータファッションを身に纏った高身長で、ソース顔の、そして、額に大きなほくろがある人間が、僕と瓜二つの男がそこにいた。


「貴方からしたら私の方がドッペルゲンガーかもしれないけど、私は貴方がドッペルゲンガーだからって殺す気はないわ。そんなことしたら、ドッペルゲンガーは危険な存在じゃないっていう実証もできなくなっちゃうしね。でも、貴方が私を殺さないって保証はないでしょ?だから、ずっと監視させてもらうわ 」

「は?こんなことして、何の得にもならないだろ?それにコレ、誘拐に監禁じゃねぇのか? 」

「大丈夫よ。私がこの声で親に電話したから。『やりたいことが見つかったから大学辞める』って。少しかなしそうだったけど、納得したわよ。明日には寮から荷物も引き払ってあげるし、退学届も貴方のダサい服を着て私が代わりに出してあげる。貴方はただ、ここで生きてるだけでいいの。楽でいいでしょ? 」


 彼はそういうとニコリと微笑んだ。ダメだ、この男、僕の話を聞く気がない。



 こうして、ドッペルゲンガーによる四年七ヶ月に及ぶ監禁生活が始まった。

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