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猫の四朗  作者: 海水
SSなど
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エイプリルフールSS『嘘をついて良い日』

エイプリルフールの時に割烹にあげたものです。

 良く晴れたある日、四朗とチェルナは塔の外で日向ぼっこをしていた。だらしなく腹を見せて寝ころぶ四郎のお腹を枕に寝っ転がるチェルナ。二匹の猫がまったりと過ごしている、いつもの風景だ。チェルナがふわぁーと欠伸をした。そんな暇そうなチェルナを見た四朗が口を開く。


「今日は嘘をついても良い日なんだ」


 四朗は寝っ転がりながらチェルナに教えた。元の世界では今日はエイプリルフールという日だ。世界的にお遊びの日だった。

 ちなみに、この世界でも嘘の日というのがある。なんでも偉い神様が、英雄が死んでしまったことで悲しみに暮れる国を、これは嘘だ、といって英雄を生き返らせてしまったことが始まりらしい。その日が今日なのだとか。そんな事しちゃ駄目だろ、と四朗は突っ込んだが昔々の事なので、どうしようもないようだ。


「なんか聞いた事があるのじゃ! 侍女がそんな事を言っていたのじゃ!」


 チェルナは前足を上げて答えた。


「その時は、空から飴が降るぞーって嘘をついたのじゃ。でもすぐに飴が降ってきて嘘にならなかったのじゃ」

「……そんなバカな」


 この世界では四朗の常識は通じない。目の前で起こった現象が真実であり、全てなのだ。飴が降ったというのなら、それが真実なのだろう。


「じゃぁ、なにか嘘をついてみるのじゃ! えーと、そうなのじゃ! 今日は猫缶が降るのじゃ!」


 何か甲高い音がして、四朗の目の前に銀色の物体が地面に突き刺さった。飛び散る土が四郎の顔に襲い掛かる。


「ちょ、ナニコレ!」


 思わず起き上がるとお腹のチェルナがどさりと落ちる。頭を振って土を飛ばし、突き刺さった物体を見ようと目を開ければ、又も甲高い音と共にすぐ横に何かが突き刺さった。


「猫缶なのじゃ!」


 銀色の物体が猫缶と分かり嬉しそうなチェルナの真横にも、それが突き刺さった。さすがに二人の動きが止まった。チェルナの目も驚きで開いてしまっている。


「嘘じゃないじゃん、コレ!」


 四朗がバッと空を見上げれば、数多の小さい物体が視界に入った。


「あれ全部猫缶かよ!」


 四朗が叫んでる間にもソレはぐんぐん大きくなる。本能的にヤバイと感じ、逃げようと体勢を低くした。しかしその視界の端っこに、今にも猫缶に飛びかかりそうにお尻を振っているチェルナを見た。


「え゛」


 四郎の目が白くなるも、体は動いた。後ろ足で地面を蹴りチェルナの真横まで飛ぶと、彼女の首をかぷっと噛み、塔の入り口まで全速力で駆けた。


「にゃにゃにゃにゃーー猫缶が遠ざかるのじゃー!」


 前足を伸ばし後ろ髪をひかれまくっているチェルナを咥え、なんとか塔の入り口に駆け込むと同時に雨の様に猫缶が降り注ぎ始めた。何故かこの塔の周りだけに。

 地面にすごい勢いで猫缶が突き刺さり、土の茶色が猫缶の銀に塗り替えられていく。


「どうなってんだよ、これはーー」


 床にぽとりとチェルナを落とした四朗が愚痴った。愚痴りたくもなる。猫缶のガラガラ煩い金属音が耳にも突き刺さって来るのだ。四朗とチェルナは前足を耳に当て、少しでも音から逃げようとしたが、猫になったおかげで良く聞こえるようになっており、あまり効果はなかった。

 二人は目を瞑って音の洪水に耐えた。しばらくすると最後のガコンという鈍い音がすると、辺りはしーんと静かになった。どうやら猫缶の雨はやんだらしい。


「酷い目にあった……」


 四朗は疲れたのか床にベタンと這いつくばってしまった。目も死んでいるように濁っている。隣のチェルナは前足を床にタシタシと叩きつけていた。


「あーーー思い出したのじゃ! 今日は嘘をついて良い日ではなくて、嘘がほんとになる日なのじゃ!」

「んな馬鹿な……」


 楽しそうに猫缶に駆け寄るチェルナを、四朗は遠い目で眺めていたのだった。

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