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猫の四朗  作者: 海水
魔女と星の王子様
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第九十三話

 突然のことにアークは目を開くばかりだ。デバガメ中の二人も尻尾を限界まで伸ばし、口を大きく開けた。耳は飛び出しそうだったがピシっと伸びただけで済んだ。

 星達が見守る中、音の無い時間が過ぎるとエイラはふっと顔を離した。顔を赤くする以前に驚いて固まっているアークを見てエイラはにやっと笑った。


「ふむ、ファーストキスはレモンの味というが、()()でもないな。むしろ()()

「なななな」

「やはり何事も経験だな。やってみなければわからない。はは、やはりアークといると楽しいな。落ち着いたら子作りというもの試してみようじゃないか。アークとならできそうだ」


 さっきまでの考えに沈むエイラの影は綺麗に消えさり、そこにいるのはすっかり元のエイラだった。大きく口を開け絶句するアークをしり目にエイラは楽しそうな笑みを浮かべる。


「さて、いうことを聞かない星君達にはお仕置きが必要だな」


 夜空を見上げたエイラが浮かべた笑みは、ステラのそれだった。美しくも狂気を孕んだ赤い瞳は薄らと細められ、アークはそれに見惚れた。


「ん? ほらアーク。しっかりするんだ。しっかりしないとディープキスというものを試したくなるじゃないか」


 エイラは両手でペチペチとアークの頬を叩く。ハッとしたアークが我に返った。


「ええぇと」

「さぁ、オイタな君達には()()()()()()()()!」

 

 エイラがパチッと指を鳴らすと、その指の周りに漆黒の渦が現れた。エイラはその指を天に翳す。


「さぁ、まずは集まって貰おうかな」


 漆黒の渦が激しく回転を始めると、夜空に瞬いている星がグングンと吸い寄せられていく。ほうき星が必死に逃げようとしていたが、その尾を掴んでいるが如く、まったく動かない。

 

「はは、私に逆らおうなんて、五百年は早い。観念してお縄になるんだ」


 エイラがまた指を鳴らすと、今度は光で編み込まれた縄が現れ、一目散にほうき星に向かって行った。そしてほうき星をがんじがらめにすると沖びき網の様に引き寄せていく。

 エイラの魔法にアークは口を開けて見ていることしかできていない。それはデバガメ中の二人も一緒だった。目の前のありえない光景に、ただただ見ていることしかできないのだ。

 そしてほうき星はエイラの目の前に連行された。光りの縄で文字通りお縄になったほうき星が激しく暴れている。


「君が一番の暴れん坊だね」


 そういいつつ、エイラは漆黒に包まれた手でほうき星を撫でようとする。黒く瞬くその不気味な光を見たのか、ほうき星は激しく点滅し出した。エイラの手がギリギリのところまで来た時、ほうき星は直立し、ピタッと動かなくなった。まるでキオツケをしている様だった。


「おや、随分と素直じゃないか」


 ほうき星を見つめるエイラがにやっと笑った。その笑顔を見たのか、ほうき星からは光の粉がパラパラと床に落ちていく。まるで汗をかいている様だ。


「初めからそうすればいのに」


 エイラは優しく微笑むが、その表情通りには受け取れない状況だ。残りの星達はおとなしくエイラの前に勢ぞろいした。凄まじい光量で目がかすむが、エイラは平然としている。


「さて諸君。私はこのアークを()()にするつもりだ。つまり私はアークの()()()でもある。言いたい事は分かるかな?」


 星達を前にして、左腕で茫然としているアークの肩を抱き寄せ、右手を腰に当てたエイラは言い切った。問いかけるエイラの言葉に、星達は光量を落とした。恭順の意を示したのだろうか。


「聞き分けのいい子達だ」


 ニンマリとするエイラの目には、もはや狂気が宿っているようには感じられない。もとの自信あふれるエイラの笑みだ。


「えっと、あの」


 どもるアークにエイラは答える。


「まぁ、こーゆーことさ」


 エイラはまたもアークの唇を奪うのだった。

ぼちぼち終わります。というか次回最終話。

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