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猫の四朗  作者: 海水
魔女と星の王子様
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第九十話

 空中に浮かぶ、抱き合った黒と白の猫。向かい合う様に箒の上に立つマダムステラ。ニコリと笑うステラに四朗の頭には警報が鳴り響いている。


「あらぁ、そんなに警戒しなくっても良いのに。臆病な子猫ちゃんねぇ」


 うふふと色っぽく笑うステラに、四朗は子猫ちゃんと言われても言葉通りには受け取れないと感じた。確かに猫ではあるが、意味合いが違う。


「エイラのおばあちゃんがなんでこんな所に?」

「可愛い孫が楽しそうにしてるようだから、様子を見に来たのよ」


 ステラはニコリと微笑むが、どうにも妖艶な雰囲気を纏っており、フェロモンマシマシだ。だが四朗はふと思い出す。空に連れ去られる前に見たのは女の子だった。あれもステラなのだろうか。


「ふふ、女には秘密が多いの」


 四朗の思考を読んだのか、ステラが手を伸ばし四朗の頭から背中へと擦っていく。その手を追う様に四朗の体にはゾワゾワが怒涛の如く押し寄せてくる。

 悶える四朗を見て妖しく笑うステラにチェルナが「シロは妾のモノじゃ!」と噛みついた。


「可愛い猫ちゃんねぇ。食べちゃいたいくらいだわ」


 赤い瞳を薄くしたステラがチェルナの頭にそっと手を乗せ、ゆっくりと舌で唇を舐めた。直後、チェルナが牙をカチカチと鳴らし始めた。


「だだだめなのじゃ、このおばあさまに逆らっちゃだめなのじゃ!」

「ふふ、おとなしくお話を聞いてくれれば、食べないわよ?」


 ステラはニンマリと笑みを浮かべ、いう事を聞かなければ食べるぞ、と暗に恭順を迫ってきた。空に浮かべられ、本能的な恐怖にさらされれば逆らおうなどとは考えられない。四朗はコクコクと頭を振った。





 二匹とステラは塔から程離れた湖の畔にきた。青い石を取った湖の対岸になる。

 静かな波が押し寄せる砂浜に佇むステラはハイヒールだが沈む気配はない。ステラは魔女なのだから、と四朗は考える事を放棄した。下手な考え休むに似たりともいう。


「ちょっとお願いがあって来たのよねぇ」


 湖の水面を波打ち際で見つめるステラが呟く。四朗とチェルナは並んでお座りをして、彼女の背中をそよぐ赤い髪を見ている。ステラは髪を広げ、くるっと振り返り二人に向いた。


エイラ(あの子)の事は、そっと見ていて欲しいのよ」


 ステラは真剣な顔で四朗を見てきた。


「数百年ぶりにやる気になったのか外に出てきたのよ、あの子」


 自分が来てからの事だろう、と四朗は直感した。自分が白猫に転生してチェルナの元に行ったはいいが、そのチェルナは死んでしまった。月の神様に願いを叶えて貰ってチェルナが生まれ変わったのがエイラの使い魔の猫だった。それから時間というエイラの中でさび付いていた歯車が動き始めたのだ。

 なんでこの事を知ってるかなんて聞くだけ無駄なんだろう。どうせ魔女だから、とか言われるに違いない、と四朗は思う。


「魔女たるもの、運命は自分で切り開くのよ。誰に頼れる訳でも無いし」

「エイラはいま困ってるんだ。助けてくれないのか?」

「そうなのじゃ! 二人を一緒にいさせたいのじゃ」


 目を伏せるステラに、四朗とチェルナは抗議の声を上げる。力があるならちょっと貸してくれてもいいのに、と思わずにはいられないのだ。

 しかしステラはそれを否定するように頭を小さく振る。


「一緒にいたいのは本人の意志なのかしら? あなた達がそう思ってるだけじゃなくて?」


 ステラは顔を上げ、四朗とチェルナを見比べてくる。優しく笑うステラの赤い瞳が細まった。


「違うでしょ? あの子はできる子だから。まぁ、ちょっと抜けてるというか、変わってるところもあるけどね」


 ステラはちょっと苦笑いになり、四朗もチェルナもつられて髭をたらした。


「あの子が望めば、解決する方法なんていくらでもあるの。あの子はまだ踏ん切りがついてないのよ。星なんて、いうこときかなきゃきかせればいいだけ。か~んたんよ」


 口元に大きな弧を描くステラの赤い瞳には、狂気が渦まいていた。そんなことが四郎に分かるわけはないが、彼の全身の毛は逆立った。エイラとは格が違う思考の持ち主だった。


「だからあなた達は二人を静かに見守っていて欲しいのよ。あの二人の行く末はあの二人が決めるの。大丈夫、あの子(エイラ)は私の自慢の孫だもの。それにひ孫を見るまでは死ねないしね」


 そう言い切ったステラはパチンとウィンクをした。

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