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猫の四朗  作者: 海水
魔女と星の王子様
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第八十四話

 エイラと彼女にしがみ付くアークを乗せた杖は、緑の草原を渡る風の様に疾走している。凄い勢いで滑空していく二人に驚いた兎が離れるように逃げていく。


「いやぁ、しつこいねぇ」


 エイラは片手でアークを抱きよせ、片手で帽子が飛ばされない様に押えながら、杖を激しく蛇行させる。巨大カマキリは律儀にその蛇行に沿って、追い掛けてきた。その律義さにはエイラも感心のため息をつく。


「はぁ、真面目なカマキリだね。あの二人も見習ってほしいくらいだ」


 エイラの言うあの二人とは、四朗とチェルナであろう。元人間とは言え半分は猫になってしまった彼らに真面目さを求めるのは如何なものかとも思うが。


「ああああの!」

「アークはしっかり掴まってて! でないと落ちちゃうからね!」


 アークは最初から杖に乗っていたわけでは無いので、振り落とされる可能性があるのだ。アークの腕がエイラの腰に巻き付き、ぎゅっと圧迫してくる。

 しっかりと掴んだのを確認するとエイラは更に杖を振り回し始める。蛇行と宙返りをミックスさせて諦めさせようとしたが昆虫にそれほどの脳みそは無いらしく、直情に追いかけて来る。


「な、なにか魔法で、撃退できないんですか!」


 胸元からアークの声がする。押し付け過ぎなのか声がくぐもっているが。


「あー、私ってそーゆー魔法は嫌いなんだ。それに、カマキリだって可哀想じゃないか。でも、このままだとらちが明かないね」


 エイラは後ろを見た。目を真っ赤に染め、お怒りモードの巨大カマキリは二人を許してくれそうにはない。仕方がないなぁ、と呟いたエイラは押さえていた魔女帽子を脱ぐと手で持ち、円を描くようにくるりと回した。

 すると魔女帽子からほよほよと大きなシャボンの球の様な虹色の球体が、わらわらと出てきた。エイラが帽子を振れば振るほど、それは湧きだすように現れる。

 その虹色の球体は巨大カマキリに当たるとパンと割れ、ドーナッツの様な虹を作り出す。次々に当たるシャボンの様な球体が割れ、カマキリは虹のドーナツに覆われてしまった。視界が奪われたカマキリは、ちょっとコースを外れだした。


「さーて、今のうちに逃げ切るよ!」


 杖は遠くに見える森に向かって更に速度をあげた。





 杖は森に入り、すぐに上昇して枝の中に身を隠した。生い茂る葉っぱが身を隠してくれるのだ。


「うまくまけてると良いんだけど」


 ちょっと離れた所からメキメキと気をなぎ倒す音が響いてくる。あのカマキリが森に突っ込んできたのだろう。しかも木を避けずに強引に突っ切っているようだ。


「ふぅ、視界を奪っておいてよかったよ」


 エイラは安堵の息をつくが、遠くからはカマキリに驚いた鳥たちの悲鳴が聞こえてくる。鳥たちはカマキリの良い食事になってしまうのだ。


「あの、もういいですか」


 エイラに抱き寄せられていたアークがモゾモゾと動いた。エイラの腕から脱出を試みている様だが、抜け出せないでいた。腕力はエイラの方が上らしい。


「あぁ、忘れていたよ」

「……忘れないで下さいよ」


 解放されたアークは、ぷはぁと息をついた。杖に腰かけもう一度大きく深呼吸をした。


「息ができなくて死んじゃうかと思いました」

「あぁ、それはすまないね」


 エイラはふふっと笑ったが、直ぐに困った顔になった。アークは首を傾げて問う。


「何か困った事でも?」

「あー、なんというかな、此処がどこだか分からなくてね」


 珍しくエイラが困って頭を掻いた。

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