第七十八話
窓から朝日の橙色が差し込み、窓枠に止まった小鳥がコツンとガラスをつついた。ベッドでは毛布の塊の中でエイラとアークが静かな寝息をたてている。アークは膝を丸めており、エイラはそのアークの頭を胸に押し当て、背中に右手を回していた。
「んにゅぅ」
アークが顔をグリグリとエイラに押し付け、胸の谷間に埋もれていく。胸元でもぞもぞ動けば、エイラも目が覚める。
「んーーー」
薄目を開けたエイラが、現状を確認するために視線をぐるぐると動かした。胸元にある金髪に目が止まった。顔の半分は胸に埋もれているアークを見つけたのだ。
「……いつの間にか向きが変わっているのだな」
背中にある右手をアークの頭に移動して、髪の毛を指で掬う。細く柔らかい感触がくすぐったくも気持ちよかった。アークもくすぐったいのか「んにゅ、もう食べられません」と呟き体全体をエイラに押し付けくる。エイラはにやっと笑う。
「乙女の柔肌を堪能したまえ」
エイラはアークの髪を楽しんでいた手で頭を押さえ、体を前に押し出した。息苦しいのかアークはすぐに「ぷはぁ」と息継ぎのために顔を上げた。そして目を開くと、エイラの赤い瞳とバッチリご対面するのだ。にやけるエイラの「おはようアーク」の一言に絶句するのだった。
「な、なんでエイラさんがこっちにいるんですか!」
「いやぁ、ベッドを間違えてしまったようだ」
「そんな事あるわけないじゃないですか!」
「現実とは、奇怪なものでね」
こんな言い合いを、エイラはアークを胸元に抱きしめながら、楽しんでいた。アークは耳まで真っ赤にしていたが、エイラはそんな様子も楽しんでいるようだ。
「さぁ、何時までも私の純潔を弄んでいないで、朝食をたべよう」
「ちょっと、エイラさん!」
エイラは飄々とベッドから起き上がった。
黒い魔女姿のエイラと、青いズボンに白いシャツ、青いチョッキで、だいぶ男の子らしい服装になったアークは、食料を調達して、街を出た。青い空から降り注がれる強い日差しを受けながら、草原の道を塔に向けて歩き始めた。
「歩いて帰ると、二日はかかるかな?」
エイラが指をパチンと鳴らすと、空中から麦わら帽子が落ちてきた。さっと掴んでアークの頭にポスンとのせた。
「日差しが強いからね」
にっこり微笑むエイラの視線を感じたのか、アークは両手で麦わら帽子の位置をぐいぐいと動かしてなおしている。
「杖で飛ばなくても良いんですか?」
バツが悪そうにアークが聞いた。自分が怖がるから飛んで行かないのだと、分かっているからだ。
「まぁ、急いで帰るほど、何かに追われているわけでもないだろ? のんびり歩くのも、たまには良いもんだよ」
エイラは、どことなく楽しそうだ。歩く足取りも軽く、今にもスキップしそうなくらいだ。
「まだまだ、世界には不思議な事があるんだ。飛んでいたら、気が付かないかもしれないしね」
エイラはパチッとウィンクすると、アークの手を取り、歩き始めた。
終わりじゃありませんぞ!




