第六十九話
四朗とチェルナに見送られたエイラとアークは、良く晴れた空をのんびりと飛んでいた。エイラは鼻歌交じりだが、アークは落ちまいと必死にエイラの腕にしがみ付いている。二人とも横座りで、エイラが前アークが後ろだ。
「この杖からは落ちないから。手を離しても大丈夫だって」
さっきからこう言い聞かせて言うが、アークは頑としてエイラの左腕を離さない。杖はかなり速度を落としており、高度も低く飛んでいる。アークはそれでも怖いようだ。
だが、初めて飛ぶのであれば、この反応が正常だ。
「で、でも!」
「アークは高いところにいたんじゃないのかい?」
呆れ顔のエイラが尋ねた。
「つ、月にはいましたけど、あそこは安定していて、揺れませんから」
アークは揺れる杖にビクビクしている。腕を抱きしめられているエイラはふぅと息を吐いた。
「じゃぁ、ちょっと時間がかかるけど、歩いていこうか」
杖はゆっくりと地上へと降りて行った。
「アーク、これなら怖くはないんだろう?」
「やっぱり土の上が安心です」
「月にいる方が、余程怖いと思うのだけどねえ」
草原に、真っ直ぐ筆を走らせた街道を、荷物も持たず、この場にはそぐわない、魔女姿と可愛いワンピース姿の女の子二人が、土が露わになった道を並んで歩いている。駆け抜ける風がアークのスカートを大きく揺らし、アークは慌ててソレを押さえた。
「やっぱり、スカートは慣れません」
「仕方がないじゃないか。私は男物の服など持っていないのだから」
エイラは、ミニスカートの裾を指で摘まんだ。自分は女の子なんだよ、とアピールするようだった。
「そう、ですよね。でも、その可愛い服がよく似合ってますね。帽子も不思議な形ですけど、その服には合うんですね」
アークは、顔の周りに星を煌めかせながら、偽りのない笑顔をエイラに向ける。エイラは魔女帽子を良く言われたからか、ニッと笑った。
「この帽子はねえ、まだ私が小さいときに、母が作ってくれた物なんだよ」
エイラは頭から帽子を取り、目の前に掲げる。そして微笑みながら目を細めた。
「被り始めて、かれこれ数百年。コレは私が魔女である証さ」
その帽子は、そんな時を経たとは思えないほど、シャンとしていた。
「エイラお姉様は、魔女さんだったのですか!」
アークは、星を瞬かせながら、目を大きくした。その顔を見て、エイラは、ちょっと寂しそうな顔をする。あの街の事が頭によぎったのかもしれない。
「あぁ、言ってなかったっけね」
エイラは、魔女帽子を一瞥し、赤い髪を隠すように頭にのせた。そしてアークを向いた。
「私はエイラ。魔女をやっている」
エイラは胸を張り、そう言った。




