第六十八話
太陽の光が優しく降り注ぐ昼下がり。エイラとアークと猫二人は塔の外に出てきた。エイラはいつものミニスカ魔女服に魔女の帽子だ。
「エイラ、本当に街に行くのか?」
杖を取り出し、出かける気満々のエイラに、四朗が尋ねた。この前、とある街で嫌な思いを下ばかりだ。四朗もチェルナも髭を下げて不安げな様子だ。前の様に魔女だと言われ、住人が奇異の目で見る事によって、エイラが悲しむのが嫌なのだ。
「私の精神の安寧の為には、是が非でも必要なんだ」
エイラはアークを見ない様にしながら四朗に答えた。アークは相変わらずピンクのワンピース姿だ。エイラはこれがお気に召さないらしい。
「そう、ですね。僕も普通の服が良いですけど……買っていただくのも気が引けます」
アークはスカートの裾をちょっと持ち上げて、困って顔をしている。チラリと覗く生足が艶めかしい。これが女の子ならば、かなりの破壊力を持った仕草なのだが。
エイラは視線だけ移すが、すぐに視界に入らないようにした。その様子を見た四朗は、そこまでダメ?、と首を捻った。
「エイラが避けてるのじゃ」
チェルナがこっそり四朗の耳打ちしている。四朗は小さくコクリと頷いた。四朗も同感だった。
「嫌われちゃうと、困るんだけどねえ」
四朗はチェルナに耳打ちを返した。二人は鼻と鼻を突き合わせるように、ひそひそと話しをしている。当然そんな事そしていればエイラもアークも気が付く。エイラは、じとーっと横目で見ている。
「まったく、いい気なものだね」
エイラは若干不愉快そうだった。エイラが口をとがらせている様を、アークが不思議そうに見ている。何故だか分らないのだろう。
「シロ君とチェルナは、留守番!」
エイラはぷいっと顔を背けた。
「えぇーー!」
「のじゃ!?」
四朗とチェルナは同時に叫んだ。二人の尻尾が長く伸びたうえに真っすぐにそそり立った。
「また因縁付けられたらどうするんだよ!」
「そうなのじゃ!」
「大丈夫だよ。すぐそこの街は小さいんだ。第一、服を買いに行くだけさ。変な奴に絡まれる心配もないさ」
エイラは杖を振り回しながら訴えた。アークは言い合っているシロとエイラを交互に見て困惑している。エイラは、何故か頑なに二人に留守番を言い渡していた。
「なんか、エイラらしくないなぁ」
「おかしいのじゃ」
四朗もチェルナもおかしいとは思いつつ、初めて見るエイラの意固地な態度に、お互いの顔を見合わせた。そして仕方ないか、という風に、尻尾をたらした。
「分かったよ。でも気を付けてな」
「何かある前に、帰って来るのじゃ!」
ちょこんと座って見送る二人の前で、エイラはエイやっと杖に腰かけた。アークはどうしていいか分からず、宙に浮かぶ杖の前で困っていた。
「アーク。杖に腰かけるんだ」
「え、えっと」
エイラに言われても、アークは何処に腰かけていいか決められず、きょろきょろと杖を見ている。
「ほら、こっち」
「ひやぁぁ!」
エイラがアークの手を取り、ぐいっと引っ張り上げ、エイラの隣に座らせた。勢いで杖が上下に揺れる。
「わ、揺れる!」
ぐらつくアークはエイラに腕を巻き付け、抱き着いた。途端にエイラの魔女帽子がピンと真っすぐに伸びた。
「うわぁぁ!」
叫び声をあげ、エイラが暴れた。
「あ、暴れると揺れます!」
「アーク、君が手を離せばいいんだ!」
エイラがアークの腕を解こうともがき始めた。だがアークは落とされまいと必死に抱き着いている。
「手を放したら、落ちちゃいます!」
「おお、落ちないから大丈夫だ! そ、そこはダメだ!」
「何がダメなんですかーー!」
地面からちょっとしか浮いていない高さで、エイラとアークは、じゃれていた。
「あー、なんか腹立つ」
「のじゃ。目の毒なのじゃ」
四朗とチェルナは半目でその様子を眺めている。今までの自分たちを棚に上げ、二人は言いたい放題だった。




