第六十七話
「わー、凄い量の本です!」
「まぁ、暇潰し的に集めたものだけどね」
エイラとアークは、塔の中にある書庫にきていた。もちろん、四朗とチェルナも一緒だ。
塔の大きさからは想像できない程の空間が広がっていた。向こう側までは、四朗が全力で駆けても一分は掛かりそうだ。そんな空間に、木製の本棚がみっしりと並んでいて、本もみっちり詰まっていた。
アークは目をキラキラさせ、顔にも星を散らばせて、その本達に見入っている。
「……カビ臭い」
「なんか、スエた臭いがするのじゃ」
四朗とチェルナは前足で鼻を押さえている。
確かにこの空間の空気は澱んでいるようだ。紙の臭いとでもいうのか、四朗が苦情を訴える程度には、カビ臭かった。
「まぁ、此処に入るのも久しぶりだからね。百年は来なかったな」
「もうその程度じゃ驚かなくなったな……」
四朗も百年という単語にも大分慣れてきていた。エイラの話を聞いていると時間の感覚がおかしくなるのだ。
「でも、この本棚の中では劣化が止まるんだ。紙は買った時と同じはずさ。この臭いは紙そのものの香りさ」
「じゃぁ、昔の本を今でも読めるんですか!」
アークの顔の周りでは、又星が瞬き始めた。何かが嬉しいらしい。
「で、ここに来た理由はなんなのじゃ?」
チェルナが最下段の本を見ながら聞いた。猫の目の高さではコレが限界だ。背表紙には色々な題名が書いてあるが、イマイチ統一されていない様だ。チェルナはそのでたらめさに首を捻った。
「ん~、幼かった頃に神話の本を読んでもらった記憶があってね。そこに月の女神の話があったような気がするんだよ」
エイラは顎に指を当て記憶を手繰り寄せていた。アークはそんなエイラをじっと見上げている。身長は、エイラの方がやや高い。エイラ自身は背が高い方ではないから、アークが小さいのだろう。ちなみに未だアークはピンクのワンピース姿だ。可愛い少女が見上げているといった感じだ。
「おとぎ話みたいなもんか?」
「まぁ、神話なんてお伽噺みたいなものさ。人間が想像で書いたモノだからね」
四朗の質問にも、視線は上を向き、心ここにあらずという感じでエイラは答える。記憶の海に漕ぎ出して、帰ってきていない様だ。
「でもエイラお姉さま? 昔から、神はいるんですよ?」
アークが小首を傾げた。自分の親が神だからなのだろう。アークの声にエイラが視線を向けた。アークのやや上目遣いの視線を受け、即座に顔をそむける。
「アーク。君には男の子用の服を買おう。今すぐにでも買いに行こう。うん、善は急げと言うしな!」
魔女は若干顔を赤らめながら、何かを振り払うように、語気を強めた。




