第六十四話
朝の食事時は静かだった。テーブルには魔女姿のエイラと可愛らしいピンクのフリフリのワンピース姿のアークが座り、床では四朗とチェルナが並んでカリカリを食べている。
エイラはアークを気にすることなく黙々と食べていた。あえて見ないようにしているのかもしれない。
食事はパンに肉詰めに生野菜を添えた物と簡単なスープだ。四朗は二人の様子を気にしながらカリカリを頬張っている。あれから二人は一言も言葉を交わしていないのだ。
まぁ、気まずいのは分るけどさ。四朗はそう思ってアークを見た。彼は俯きながらの上目遣いで、チラチラとエイラを気にしている。
男女逆だよな、と四朗は感じた。
「あ、あの」
おずおずと話しかけるアークに対して、エイラは大人げなくもキッと睨みつける。
「なに」
「食事、美味しいです」
控えめだが、にこやかに笑うアークの顔から、朧げな矢がエイラに向かって放たれた。その矢はエイラの胸の辺りに刺さって消えた。
様に四朗には見えた。エイラの顔は固くなって動いていない。その様子にアークは怯えたのか下を向いてしまった。
「今、何かがエイラの胸に飛んでいったのじゃ」
横のチェルナが耳打ちしてきた。
「あれ、チェルナも見えた?」
「見えたのじゃ。あれ、なんなのじゃ?」
「俺にも分らないよ」
またも静かな時間が訪れた。白と黒の猫は揃って首を捻るばかりだ。
「そういえば、アークはなんで空から落ちてきたんだ?」
食事も終わり、四朗はアークを尋問し始めた。アークを椅子に座らせ、四朗はテーブルの上にぺたりと座る。
エイラは何故か洗い物をしている。いつもなら魔法でちょちょいと済ませてしまうはずなのに。チェルナはエイラの見張りで、足元に箱座りで任務中だ。決して休憩している訳では、ない。
「あの、母上に蹴り飛ばされました」
「はぁ?」
唖然として下あごを外した四朗に向かい、アークは更に続ける。
「母上は、時が来た、って言ってました。僕には良く分らないです」
アークが申し訳なさそうな頭をさげた。
「えっとごめん、話が突拍子もなくて。母上って、だれ?」
「月の神様をしています」
「はぁ?」
四朗はアークをじっと見た。
「アークって、何者?」
「僕は、星の運航を管理してるんです」
「……アークって神様の子供なの?」
「どうなんでしょう。僕末っ子なんで、良く分らないんです」
アークは苦笑いをした。
末っ子とか緩くないか?、と四朗は思ったが、黙っていた。この世界では四朗の常識は通用しないのは身をもって知っているからだ。
アークは星の運航の管理をしている、と言った。星の運航と言っても、実際動いているのは地面なわけで。と思ったところで四朗は思考を止めた。
地面が動いているなんて常識は、通用しないのかもしれない。
「あ、あのさ、星が地平線の下から昇って、地平線に沈んでいくじゃん。あれって星が動いてるの?」
四朗の言葉を聞いたアークはきょとんとした。ほぇ、と声が出そうな顔だ。
「シロ君、星が動くのは当然じゃないか」
洗い物をしているエイラが会話に割って入ってきた。こっそりと聞いていたらしい。
「リアル天動説。まじかよ……」
白猫の目玉も、白くなってしまった。




