第六十三話
「あの、ゴメンなさい」
肩にかかるくらいまで伸びた金髪をばさっとたれ下げ、彼はベッドの上で頭を下げた。
顔を上げると、人形みたいだった顔が、赤みを帯びてちゃんと人間の顔になっている。ぱっとみ女の子のようだったが、よく見るとまだ少年のようだった。
やや黄色みがかった茶色の瞳は、ちょっと潤んでいて、彼が今の状況を掴めていない事を教えてくれた。
「きき、君は!」
毛布を体に巻き付けたまま、わなわなと震えるエイラは彼を指さしている。いつもの冷静なエイラはどこかにかくれんぼしてしまったようだ。エイラの反応は、見た目よりも、余程若い女の子の反応だった。
「エイラ、落ち着けってば」
「そうなのじゃ。いつものエイラらしくないのじゃ!」
チェルナがエイラに飛びつき、毛布に爪を立ててよじ登って行く。
「ちょ、ちょっとチェルナ! 毛布が落ちるって!」
「エイラの自慢の体は見えた方が良いのじゃ!」
「良くないって!」
騒いでいる二人を尻目に、四朗は彼の元に歩いた。
「やぁ、こんにちは」
「あの、こんにち、は」
猫がしゃべるからだろうか、彼はちょっと挙動不審だ。四朗もそれを察したのか、右前脚を翳し「細かい事は抜きにして」と前置きした。こんなことをするから不審に思われるのだ、という事まで、四朗は頭が回らない様だ。
「俺の名前はシロだ。言葉をしゃべるのは、気にしないでくれ。君の名前は?」
「ぼ、ぼくは、アークと言います」
おどおどしながら、金髪の彼は、アークと名乗った。
「後ろで騒いでる女の子がエイラで、黒猫がチェルナだ。よろしく!」
アークがエイラに視線を移すと、エイラは涙目でギャーギャーとがなっていた。その様子を見てアークは首を縮めてしまう。
「お、乙女の柔肌堪能したんだ! わ、わかってるだろうな!」
そう言われたアークは、少し俯いた。耳が赤くなってしまっている。
「あ、あの、夢の中でてすけど、良い匂いがして、暖かくて、とっても、柔らかかったです。すみません」
照れながら謝ってくるアークの声に、プシューという音を立てて煙を吐き、エイラは倒れた。倒れたことで毛布はハラリとはだけてしまう。
「ちょっとマズイのじゃ!」
チェルナは、はだけてしまった毛布を必死にエイラの体にかけて隠そうとしている。それを見たアークも真っ赤になり、へなへなとベッドに倒れ込んでしまった。
倒れてしまった二人を見た四朗は、半目になって、やはり倒れた。
「なんなんだよ、もー!」
白猫はベッドの上で、手足をバタバタさせてもがいていた。上手くいかないことなど、沢山あるのだ。




