第六十話
四朗と、目を逸らしながらワンピースを着せているエイラによって、彼は裸ではなくなった。だが、服が無いからとはいえ、彼にワンピースは如何なものかと四朗も思うが、エイラしか住んでいない塔に男物の服を求めるのは間違いという物だ。
「ふぅ、驚いたなぁ」
エイラが汗だくになっている。何が起きても動じないエイラが額の汗を拭いているのを見た四朗は、エイラも女の子なんだなぁ、と感じだ。長い間一人でいたから、男との接触も少ないか、無かったのかもしれない。
「びっくりしたのじゃ」
チェルナはもう立ち直ったようだ。四朗と一緒で感覚が猫になっているせいだ。
「ちょっと、お、お湯を浴びてくるよ」
未だに顔が赤いエイラは、ふらふらと部屋を出て行った。
「エイラ、大丈夫かな」
「あんなに動揺しているエイラは初めてなのじゃ」
白と黒の猫は、お互いを見あっていた。
「やっぱり食べると落ち着くなぁ」
「お腹が空かないのも考え物なのじゃ」
二人はカリカリを用意して、食べていた。お皿にいれて、二人並んで仲良く食べている。
使い魔の体になってから不思議な事が四朗の体に起きていた。尻尾が伸びるのだ。
どこまでも伸びるわけではないが、ある程度伸び、かつ自在に動くので手の代わりになっている。猫の手では開けられない引き出しでも、尻尾なら可能だった。
それを見たチェルナも試したらできた。
そして使い魔の体では食べ物は不要になったが、二人はどうにも落ち着かなかった。お腹は空かないが、なんとなく口寂しいのだ。
で、カリカリを食べている、というわけだ。
「しかし、彼は何者だろうね」
「あの高さと勢いで地面にぶつかっても生きているのじゃ」
「しかも落ちてきたよね。彼」
二人は同時に彼を見た。毛布をかけられ、ベッドに静かに横たわっている。さっき見た時に傷などの痕はなかった。つまり無傷という事だ。
人形のように整た顔で、しかも男だ。見た目の年齢は十代半ばというところか。エイラよりも若く見える。ちなみにエイラの見た目は二十代前半だ。実年齢は謎だが。
「アレかな。お月さまにお願いした」
「あー、きっとそうなのじゃ!」
「その可能性は、高いな!」
「じゃあ、二人をくっつけるのじゃ!」
そこで二人はピタッと止まった。そして同時に呟いた。
「どうやって?」
「どうやるのじゃ?」
片や表に出して貰えなかった超箱入りお姫様。片や病気持ちで人生の半ばで朽ち果てた男。他人の縁結びをするどころか、自らも結ばれたことのない二人だった。
「どどどどうするのじゃ!」
「そんな事いっても、俺も分からないよ」
二人は尻尾を小刻みに震わせて動揺している。
「それじゃぁエイラが可哀想なのじゃ!」
チェルナが前足で床をタシタシ叩いた。口惜しさを感じ取る前に、可愛さを感じ取ってしまうような動作だ。四朗も可愛いと思ってしまうが、正気を保った。
「うーん、じゃぁ俺達が考えて考えて頑張るしかないんじゃない?」
四朗はぺたりと床にお尻を付け、器用に前足を組んだ。そしてベッドの彼を見た。
「まずはさ、彼の名前だよね。お月さまが選んだ相手なのかもしれないけど、彼がどんな男なのかを知ってからでも遅くはないと思うんだ」
「シロは賢いのじゃ!」
チェルナはがしっと四郎に抱き着いた。はた目には飛びかかった様にしか見えないのだが。
「あ、やったな~」
「これも罰なのじゃ!」
「まだ罰!?」
白と黒の猫はじゃれあって床を転がりまくっていた。




