第五十九話
塔の屋上にその人型を降ろし横たえた。チュニックの様な長めの服に緩めのズボン。足にはショートブーツという格好だ。水に浸かっていたからぐっしょり濡れてしまっている。
月の灯りに照らされたその顔は若く、白く可愛いものだった。生きている感じがしなくて人形かと思ってしまう程だ。
エイラはその人の顔に耳を近付けた。
「息はあるね」
腕や腹などを触り、怪我がないかを確認している。四朗とチェルナはぺたんと座り、ただ見ているばかりだ。
「骨折とかは無いようだ。あの流れ星がそうだとしたら、奇跡的だね」
エイラはふぅと息を吐いた。
「でも体が冷え切っている。急いでベッドに運ぼう」
魔女がパンと手を叩くとその人の体が浮き上がった。
「とりあえず私のべッドに寝かせよう」
エイラは自分のベッドまでその人を運んだ。四朗とチェルナはベッドなど必要が無いので、この塔にはベッドは一つしかない。
四朗とチェルナは二人で毛布を咥えて持ってきた。
「ふーむ、綺麗な娘だねぇ」
エイラは、ほぅ、とため息をついた。その人間の容姿は四朗の記憶にある美少女というものに等しかった。
短く揃えられた金色の髪は、濡れていてもなお光沢を放っている。小ぶりな唇は寒さからだろうが紫になってしまっているが、本来は淡いピンクだろうと想像できた。
「おっと、見とれている場合ではないね」
エイラはパチンと指を鳴らし服を取り出した。何時もの魔女服ではなく、可愛らしいピンクのワンピ-スだった。ワンピースを近くにある椅子に掛け、エイラはその人の服を脱がせにかかった。
「濡れていて張りついてしまっている。ふぅ、脱がせずらいな」
エイラは大分苦労しているようだ。服を脱がせるなんて魔法は存在しないようで、エイラも使っていない。あったところで、悪い使い道しか思いつかないのだが。
「チェルナ、ちょと手伝ってくれないかな? あぁシロ君はそこで待機だ。というか部屋を出て行ってもらった方が良いかな?」
猫ではあるが元人間の男である四朗は追い出されてしまった。もはや思考も猫で、尻尾が無ければ対象として見れないのに、と四朗は憤慨している。仕方なしに扉の前でふて寝した。仰向けに倒れて絶賛不満をアピールしている。
そんな四朗を他所に、エイラとチェルナは張り付いた服を協同で脱がせていた。
「ふぅ、やっとチュニックが脱げたね」
「のじゃ」
二人が息をついた時、おかしな点に気が付いた。ズボンのとある部分に膨らみがあるのだ。二人はお互いを見た。
「まさか、ね」
「気のせいなのじゃ」
お互いで錯覚だ、と確認し合い、エイラはズボンい手をかけ、ずるずると脱がし始めた。そして脱がし終わったところで、絶句した。ズボンのついでに下着まで脱げたらしく、女性には無い物をまじまじと見てしまったのだ。
エイラは視線を逸らし「お、女の子じゃない」と呟き、チェルナは顎をガクンと垂らしていた。
「シロ君!」
「シロ!」
二人同時に四朗を呼んだ。扉の向こうで呼ばれた四朗は首を捻っている。釈然としないが、入れと言われたから扉を押し開け、中に入った。
そこにいるのは顔を赤らめて涙目で四朗をみるエイラと、動揺しているのか尻尾がカクカク動いているチェルナだった。
「男の子だ!」
「男の子なのじゃ!」
声を揃えて訴えてくる。
「男の娘?」
「そう、この子、男の子なんだ!」
「付いてたのじゃ!」
四朗が彼に視線をずらすと、真っ裸にされて寒そうな男の子が見えた。四朗は「あぁ」と呟き、納得した。
白猫は、涙目で顔を赤らめた魔女と挙動不審な黒猫を見て、ふぅとため息をついた。




