第五十八話
地上に衝突した流れ星は巨大な光を見せ、しばらくして轟音を響かせた。その音は、夜空が落ちてくると錯覚する程だった。
「ななな、なんなのじゃ!」
「いやー、何か落ちたね」
「一瞬、塔のシルエットが見えた気がしたけど、あれって」
その時流れ星が落ちた方角から突風が襲ってきた。杖に座る三人を激しく揺らす。
「ぎゃー!」
「おおっと」
「あっぶねえー!」
四朗は足の間にいるチェルナをがっちりホールドし、白い尻尾を杖に巻きつけた。濁流に浮かぶ木の葉のように、えっさほいさと揉みくちゃにされてしまう。
「ははは、これは凄い!」
それでもエイラは楽しそうだった。杖に横座りという不安定な座り方でも平然と笑っている。それを見た四朗は叫んだ。
「なんでそんなに落ち着いていられるんだ!」
「えー? 前に言ったじゃないか。この杖から落ちることはないって」
エイラは赤い髪を風に漂わせながら、そんな事を言った。四朗はハタと思い出す。そういえば塔に連れてこられる時に、そんな事を聞いたなあ、と。
「でもコエー!」
「ぎゃー!」
「はははは!」
白猫と黒猫の絶叫を聞きながらも、魔女は高笑いをしていた。
「あー、ひどい目にあった」
「まったくなのじゃ」
爆風に翻弄され、げんなりしている二人がぼやく。髭を垂らし、心なしか痩せて見えるが、さすがに気のせいだろう。
「落ちないと分かっていれば楽しいものだったぞ」
エイラはグラグラと杖を揺らした。あまつさえ、鉄棒のようにグルリと一回転する。
「ぎゃー」
「やめれー!」
白と黒の猫は、ひしと抱き合った。
塔までもうすぐ、という所で塔の真横に巨大なクレーターができていた。目の前の湖にまで届いてしまうくらいの大きさだった。
「でけえ!」
「あ、穴の真ん中に人がいるのじゃ!」
巨大なクレーターの底に人型の影が見えた。夜だが使い魔である二人には良く見えるのだ。
「ちょっとヤバいかも」
エイラは杖をその人型の所に向けた。クレーターの端が湖とくっついて中に水がはいりこんでいたからだ。
近くに寄ればその人型は仰向けに倒れており、半分水に浸かっていた。
「た、助けるのじゃ」
「二人で掴めるかい?」
エイラは二人を見てきた。エイラは杖を間近に寄せた。
「やってみるのじゃ!」
「どうするのさ?」
「こうなのじゃ!」
チェルナは尻尾を杖に巻きつけると、えいっと飛び降りた。横で見ていた四朗も真似をする。
「もっと下げるのじゃ!」
「分かった!」
チェルナが杖にぶら下がりエイラに指示を出している。
「チェルナは右腕を掴んで!」
四朗はその人型の左腕を四本の足で抱き込んだ。チェルナも真似をした。水は大分嵩をまして、人型も半分以上埋まっている。
「エイラ、引き上げて!」
四朗が叫ぶと杖が上昇する。水を纏わせた人型は宙に浮いた。
「このまま中に入ろう」
人型をぶら下げたまま、塔の屋上へと向かった。




