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猫の四朗  作者: 海水
魔女と星の王子様
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第五十七話

 四朗とチェルナがモグラのように地面から這い出ると、エイラがテーブルに頬杖をつき、つまらなさそうに珈琲を舐めていた。周囲は、生い茂っていたはずの木々の姿はなく、たど荒れ地が広がっていた。


「遅くなった」

「のじゃ!」


 四朗とチェルナが挨拶をすればエイラも、お?、という顔になる。そしてにっこりと笑った。


「やぁおかえり。その様子だと、うまく見つけられたらみたいだね」

「……多分な」


 四朗は不安そうに答えた。緑ではあるが、鶯色では安心はできない。


「ん~どれどれ」


 エイラは椅子から立ち上がると、四朗に近寄った。体を曲げ、ひょいと四朗の脇に手を滑り込ませ持ち上げる。高い高いの要領で頭の上に掲げた。


「ちょ、何?」

「ふむ、ちゃんと使い魔の身体になっているね。大成功だ!」


 エイラは四朗を見て、ニッと笑った。それを見て四朗は安堵のため息をつく。


「はぁ~~、よかったぁ~~。また土を掘るなんて御免だよ!」


 エイラに持ち上げられたままの四朗はガクリと頭を後ろに曲げた。地面では四朗に向かってチェルナがぴょんぴょんと跳ねている。


「シロ!約束の罰なのじゃ!」


 チェルナは早速罰を強請るらしい。


「おや、罰って何さ?」


 エイラは顔の前に四朗を持ってきた。興味津々の目で四朗を見ている。


「毛並みをモフり倒して、全身くまなく毛繕いをしてもらって、尻尾に抱きついいて、一晩中ナデナデ添い寝してもらうのじゃ!」


 四朗が黙っているとチェルナが暴露した。


「へぇ、チェルナもそんなお年頃なんだね!」


 エイラは意味深な笑みを浮かべた。多分、エイラが思っているような内容ではないのだろう、チェルナは首をくるんと回していた。


「ふふ、まぁいいさ。ここにずっといるのは危ないから、先ずは離れようか」


 エイラはそう言うと四朗を脇に移し、空いた手でチェルナを持ち上げ、脇に抱えた。足をパタンと鳴らし杖を空中に出現させると、横向に座った。


「さぁ帰ろうか」

「帰るぞー」

「のじゃ!」


 魔女と二匹の猫をのせた杖は、ゆっくり空に向かって浮き上がった。




「いやぁ、空は良いなぁ!」

「空気が良いのじゃ!」


 四朗が杖の上にぺたりとお尻を付け座り、その足の間にチェルナが座り込んでいる。大人と子供ならバランスが良いのだろうが、二人とも大人の猫の大きさだからか、妙な格好になっている。


「君たち、腐海を出てからそればっかりだね。しかもべったりとくっついてまぁ」


 エイラが呆れるほど、二人はぴったりとへばり付いている。


「これは罰なのじゃ! 四朗は妾を置いて行ったのじゃ。罰は当然なのじゃ!」

「はいはい、仲の宜しい事で」


 憤慨しているように見えて自慢げに話すチェルナを、エイラは軽く受け流した。四朗は黙って二人のやり取りを聞いているだけだった。


「大分、陽が落ちてきたのじゃ」


 太陽は地平線にかくれんぼする寸前だった。茜色に染まる空は、柿のようで美味しそうだ。


「うーん、もうちょっとで塔に着くから、このまま飛んでいこう」


 背後から迫る夜から逃げるように、杖は速度をあげた。だが夜の方が速かったらしく、次第に瞬く星に囲まれていった。


「すっかり暗くなってしまったね」

「でも塔に着けばのんびりできるのじゃ」

「はは、それもそうだ……ってアレ?」


 エイラがふと顔を上にあげ空を見た。チェルナと四朗もつられて空を見上げる。

 黒い夜空に、一筋のほうき星が、ゆっくりと尾をたなびかせていた。それは大きく、傍にある月と同じくらいの大きさに見えた。


「綺麗だねー」

「綺麗なのじゃ!」

「すっげぇー!」


 三人は、その黄色い尾を引き連れた流れ星に魅入っていた。だが、黒い夜空を駆けるその流れ星は、そのまま地上に激突した。

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