第五十六話
この章の最終話です。
「イテテテ。酷い目にあったな」
「酷い目にあったのは妾なのじゃ!」
土の中を掘りながら愚痴をこぼす四朗に対し、チェルナは後ろから尻尾を噛む。四朗が掘っている後をチェルナがくっ付いてきているのだ。
「痛いって」
「置いて行くのが悪いのじゃ」
チェルナは横を向いてへそを曲げていた。忘れられてしまったことが寂しかったのだが、それは表には出せなかった。乙女の意地というものだろうか。悲しいかな四朗には通じていない様だが。
「あとで罰は受けるからさ。とにかく緑の石を取っちゃおうよ」
四朗はなるべくチェルナを刺激しない様に言葉を選んだ。口に土が入るが構わず話し続ける。
「俺が掘るから、今度ははぐれないようにね」
「言われなくても分かってるのじゃ!」
チェルナは前足で四朗の尻尾をがしっと掴んだ。そのままずるずると引きずられていく。はぐれない様にと、四朗は自分の尻尾をチェルナの前足に絡ませた。使い魔になりかけだから、これくらいは朝飯前だ。
「おりゃぁぁ!」
白猫は、凄い速度で土をほじくり返した。
四朗は目の前から生えだす木を爪で切り刻み、少しずつ前へ進んで行った。木の生えてくる間隔が短くなってきたことが、緑の石が近い事を教えてくれる。
「もうちょっとだ~」
「なんなのじゃ~、良く聞こえないのじゃ~」
「もう……」
四朗は諦めて掘り続ける。すると爪にゴリと違和感を感じた。木でもない、土でもない感触だ。四朗はさっと前足をどかした。
「……これか?」
四朗の目の前には、土にまみれ、くすんだ抹茶色の球体がある。
「緑といえば、緑だけど。美味しそうな色じゃないよね」
四朗は器用に前足で土を払う。抹茶色から鶯色に変わった程度だ。ウグイスパンに、見えなくもない。両前足で掴み、しげしげと観察する。
「妾にも見せるのじゃ~!」
狭い空間の隙間に顔を突っ込んできたチェルナが騒ぐ。ぐいぐい強引に体をねじ込ませ、四朗と並んだ。
「チェルナ狭いってば」
「ぴったり寄り添っているだけじゃ」
「もー」
この辺が、チェルナがまだまだ子供な証拠だ。
「これが、緑の石、には見えないのじゃ。美味しそうではないのじゃ」
チェルナがぶーたれてるが、もたもたしていると又木が出てきてしまう。四朗は意を決してウグイスパンに見えるそれをお腹に押し当てた。
「うぇぇえ」
ごりごりしたものが四朗のお腹の中で転がっている。これで三回目だが、違和感しかない。
「見た目は変わらないのじゃ」
「本人も自覚はないよ……」
「間違ってしまったかもしれないのじゃ」
「えぇ!」
二人がそんなことを話していると、突然四朗の体が七色に光り始めた。白い体が虹のようにストライプになった。
「え、ちょっと、このまま止まらないでよ! カッコ悪過ぎる」
余りの酷さに四朗から悲鳴があがる。虹色に変わったままになってしまっていた。
「うわぁー、いやだー!」
「えいなのじゃ!」
「いてっ」
狼狽える四朗の額にチェルナの前足がヒットした。すると四朗の体の虹のもようが動き出した。
「古い家電じゃないんだから……」
「男はぶつくさ言わないのじゃ!」
「なんでチェルナがそんな事知ってるのさ!」
「エイラに教えてもらったのじゃ~!」
「んなばかな!」
四朗の体が眩い七色に包まれた。が、すぐに消えた。
「あれ、終わり?」
四朗が腕をあげたり体を捻ったり調子を確かめている。チェルナもペタペタと触っているが、特に問題はないようだ。
「分からないけど、大丈夫っぽいよ?」
「一旦地上にでるのじゃ!」
「そうだね~」
今度は黒猫を先頭に、来た道を掘り返し始めた。掘っては埋めばっかりで文句を垂れながら。
次回から最終章【魔女と星の王子様】開始です。




