第五十五話
「おりゃぁぁ!」
四朗は黄色い石が刺す方向に掘り始めた。爪を刺せばスッと入り、ひたすら前足を動かして掻いていく。黄色い石は方向を教えてくれるが距離までは教えてくれない。たどり着くまで、ひたすら掘り続けるのだ。
「向きが分かるだけでも、大分違うよな」
砂漠で遭難した人が、まっすぐ歩いているつもりが、ほんの少しだけ曲がっていたために、上空から軌跡を見ると、巨大な円を描いている事がある、という話を四朗は聞いた事があった。
その人は当然、死んだ。同じところをぐるぐると回っていたのだという。
「そんなことは、ごめんだね!」
四朗は頭をぶるぶるっと振るった。尻尾を立たせようかと思ったが、土に阻まれた。
「狭いのは仕方がない!」
白猫はがむしゃらに掘り続ける。
「はぁ、飽きたのじゃ。掘っても掘っても土ばっかりなのじゃ!」
チェルナは土の中でごろんと寝っ転がっていた。チェルナは土掘りに飽きていたのだ。孤独な単純作業というのは、ふとした瞬間に、やる気をなくす。チェルナにもこの闇の瞬間が降りて来たのだろう。
日の射さない暗闇の中、することといえば爪で土を掻き、後ろに押し込むだけ。時折襲ってくる木や枝には腹が立つだけだった。
「嫌じゃ嫌じゃ。シロがいなくてつまらないのじゃ!」
チェルナは四本の足をバタバタさせて、いじけていた。中身は七歳の女の子なのだから、仕方がない。
「シロー! どこなのじゃー!」
その時チェルナの頭の横から白猫の頭がにょきっと現れた。チェルナがカクンとそっちに顔を向けた。
「……呼んだ?」
四朗が恐る恐る聞くと、チェルナは「呼んだのじゃー!」と四朗の頭を両の前足で挟み込んだ。ヘッドロックというやつだ。
「イテテテ、チェルナ痛いって」
「放っておいた、罰なのじゃ! 毛並みをモフり倒すのじゃ。全身くまなく毛繕いをしてもらおうのじゃ。尻尾に抱きつくのじゃ。一晩中ナデナデ添い寝するのじゃ! とにかくするのじゃ~!」
四朗の目が点になるのも構わず、チェルナは喚いた。溜まっていた鬱憤がボガーンと爆発したのだ。
「えーと、よく分からないけど、さっきぶり?」
「さっきぶりじゃ、ないのじゃ! 罰を受けるのじゃ!」
ヘッドロックから、体勢を変えて四朗の頭を腹に抱きかかえ、齧り始めた。呑気な四朗が更に燃料を投下してしまったようだ。
「な、何だか分からないけど、罰を受けるからさ。ちょっと落ち着こうか、ね」
丸くなって黒い塊となったチェルナの中から、四朗の声が漏れてきた。口調は小さい子を宥める感じになっていた。まぁ、確かにチェルナはまだ子供だが。
「言葉の人質は取ったのじゃ! 罰は受けてもらわねばいかんのじゃ!」
「それ、言質って言うね」
「どうでもいのじゃ!」
「はいはい」
「はい、は一回なのじゃ!」
「はいはい」
「にゃぁー!」
猫化(?)したチェルナによって、四朗はひっかきの刑を喰らっていた。




