第五十四話
「あ! そういやチェルナがいない……」
一心不乱に土を掘り返している四朗が、ふと我に返った。股の間から後ろを振り返るが、黒猫の姿は無い。土の壁があるだけだ。光が差し込まない土の中ではあるが、2/3は使い魔になっている四朗にはきちんと見えている。
「ありゃ、はぐれちゃった?」
顔をぐるりと回して見るがやっぱり土の壁があるだけ。
「ちょっと、まずいかな……」
水の中ならまだ先が見通せるが、土の中は自らがいる空間しか見えない。緑の石を探すことが目的ではあるが、チェルナとはぐれっ放しは、良くない。しかも木が次から次からやってくるこの状況では、のんびりと考え事も出来ない。
「そういえば、この首輪の黄色い石でチェルナの場所が分かるとか、エイラが言ってたな」
四朗は前足で首輪についている黄色い石をツンツンしてみる。特に変化はない。そんな事をしていると、向かってくる枝に身体をひっ掛けられて運ばれた。
「がっぺっ! 土は美味しくない!」
口から土を吐き出し、前足で口の周りを拭きとる。少しでも気を抜くと土が口に入る有様だ。四朗は呑気だが、結構必死な場面ではあるのだ。
「くっそー、どうやって使うんだよ! あれか? チェルナはどこ?とか言えばいいのか?」
前足で黄色い石を挟んでいると、頭の中にエイラの声が響いてきた。
――迷子の迷子のチェルナちゃん~、あなたの――
「それ以上はダメだ~!」
四朗は思わず叫んだ。色々と引っかかるとか、そんな事もあるのだろうが、ともかく叫んだ。
――え~、だってぴったりじゃないか~子猫じゃないけどさ――
「そもそもエイラがその歌を知っている事がおかしい!」
――ちょっとシロ君の記憶から勝手に拝借してね。いや、シロ君の知識は興味深いね――
「勝手にって、ちょっと酷くない?」
――まぁまぁ、四朗君。おっとシロ君だったね。さっきの続きは『居場所は何処ですか?』だよ!――
「ちょ!」
それっきりエイラとの会話は途切れた。どうしてそんなことが出来るの、どうして本当の名前を知ってるの、と考えるだけ無駄なことは今までで思い知っている四朗は、思考を停止させた。そしてまたも枝に引っかかり押し戻された。
「んぎゃ!って急がないと。でもあれを言うのか……」
幼稚園の時くらいしか歌わないアレを、この年で歌うのは、などと考えてしまうと躊躇せざるを得ないが、チェルナの為なのだと天秤にかける。
「そーだよなー、でも位置が分からないと探せないよなー。闇雲に探してミイラ取りがミイラになってもやばいしなー」
うじうじしているが、覚悟は決まったようで、四朗の髭がちょっと上を向いている。
「迷子の迷子のチェルナちゃん~」
続きも歌うと首元の黄色い石が光、ある一点を指し始めた。四朗が掘り進んでいる方からは右後方だった。
「あー、恥ずかしかった。ってあっちにチェルナがいるって事かな?」
このままだと離れていく一方な向きだった。四朗には合流が優先と思われた。
「よっしゃ、掘るぞ~」
白猫はうにっと爪を出し、土に潜り込ませていった。




