第五十三話
「おらがおらが!」
「すっとコどっこい!」
ノーム達は罵りあいながらも木をむさぼり食っている。何十人というノーム達が、手当たり次第周囲の木を腹に収めていく。みるみる辺りの木がなくなり広場ができてきた。日も当たらないからか地面には草も生えていない。体以上の木を平らげるが、ノームの外見に変化は見られない。妖精だからなのか。
「……これは収拾がつかないな」
エイラはこっそりと上空に杖を浮かせた。ノーム達の注目を集めてしまうと面倒だからだ。空に逃げたエイラは懐から珈琲カップを取り出した。カップからは仄かに湯気立ち上っている。
「せり上がってくる木はボロボロだから、シロ君とチェルナは頑張っているようだね」
エイラは杖に座りながら珈琲を啜る。地中の四朗とチェルナの苦労も知らず、呑気なものである。
眼下にはノーム達が更に増えて暴食と言える程の健啖さをみせていた。
「こんなのが野に放たれたら、世界の森は、あっという間に野原になってしまうな。だからこそ緑の石があるんだろうな」
魔女は驚く程の速度で減っていく森を見て、そうこぼした。
「あー、もー、何処にあるんだよー! 緑のいしー!」
土まみれになりながら、モグラのように地中を掻き進む四朗がボヤいた。もうどれくらい掘り続けているかも分からない。時計などないし、気を抜くと、いつの間にか枝が目の前にあったりもするのだ。何回か枝に運ばれ、土と挟まれそうになっていた。
「命懸けだー!」
叫ぶ四朗の口に、ごそっと土が入る。ゴホッとむせるが、堪忍袋の緒も切れたようだ。
「コンニャロー、食ってやるー!」
白猫は、半ばヤケになっていた。
「まったく、シロは酷いのじゃ!」
チェルナもひたすら土を掻いているが、こちらは休み休みだった。体力は四朗よりもあるが、気力が続かないのだ。
「帰ったらお仕置きなのじゃー!」
白い毛並みをモフり倒そうか、それとも全身くまなく毛繕いをしてもらおうか、白く長い尻尾に抱きつこうか、一晩中ナデナデ添い寝して貰おうか。どうやってお仕置きしようか考えているチェルナは、掘っている方向がずれている事に気が付いていなかった。
「ふふふ、妾を放っておくのが悪いのじゃ!」
考えている事が、果たしてお仕置きに該当するのかは別として、黒猫はやる気を取り戻し、また掘り始めた。




