第五十二話
「やぁこんにちは。いい天気だね」
エイラはとりあえず挨拶をした。コミュニケーションの基本だ。そして天気の話題は鉄板だ。
「んお? あぁ、いい天気づら。こーんな日にゃ木を貪り食ってだな、ってオイごら!」
うまく誘導できたかのように見えたが、誘導した先で思い出してしまった。腕を振り上げ湯気を出している。エイラは聞こえない程度の舌打ちをした。エイラにしては珍しい事だ。
「なーに勝手に木をぐしゃぐしゃにしてくれてんだべ! うらー聞いてるだか! この木さおれのもんだー、勝手に悪戯するじゃねーだ!」
ノームの怒りは収まらないようだが、このまま放っておくわけにもいかない。四朗とチェルナの邪魔をされても困る。エイラは手を打つことにした。
「そうそう、向こうの方で煙がもくもく上がっているけど、もしかしたら森が燃えているんじゃないかな?(棒)」
「な、なんだ? 何さ起きただ?」
「あれだけ煙が上がっていれば、それは激しく燃え盛っていて、近寄れないだろうねぇ(棒)」
「お、俺の大事な木が、燃えちまうだ!」
エイラの棒読みのセリフを真に受けたのか、小さいノームは狼狽え始めた。疑う事を知らない、純粋な存在なんかもしれない。妖精だからなのだろう。髭の爺だが。
「た、たいへんだぁ、たいへんだぁ! どうすべぇ! おれ、どうすべぇ!」
ノームはそう叫びながら木々の中に消えていった。
「ふぅ、うまく逃れられた。でもノームは、一人見かけると百人はいる、と言うし」
肩を落としそんな事を呟いた途端、今のノームとは別なノームが二人、別々な方から現れた。やはり二人とも頭から湯気を出して憤慨している。
「うらー、おらさの木に、なーにしただー!」
「そうだー! おらさの木にも何かしたっぺさ!」
「なんだとー! この木々は!おらさのだ!」
「なーに言ってるだ! おらさのだ!」
エイラに文句を言いにきたノームだが、鉢合わせた仲間に文句を言い始めた。エイラが口を挟もうとした矢先、更に別ノームが木の影から現れた。
「おめえら、なーに言ってるだがね。ここら一帯など木は、ワシのもんじやー!」
今度はエイラではなく、先にいたノーム二人に文句を付け始めた。三人がひとかたまりになると、さらにけたたましくなる。しかも皆同じにしか見えない風体で、エイラも区別がつかない。まぁ、つける気もないのだろうが。
そうしている間にも次から次からノームが出現する。
「おらのだー!」
「うっせーい!」
「やかましいわい!」
「素人はひっこんどれ!」
「なーんだとー!」
ノーム達は勝手に言い合いをしている。そんなノームの塊の脇を、ボロボロになった木がせり上がってきた。
「あー、こっただひでーこと!」
「お、おらさのもんだ!」
「おみゃーにゃやらん! あらが食ってやるだ!」
一人のノームが木をかじりだすと、周りのノーム達もこぞって木にとりつき始めた。メキメキと木が削られていく音は合唱のように木霊する。
エイラが唖然と見ている中、あれよあれよと木の姿が小さくなっていく。
「……こりゃ凄いな」
千年を生きる魔女も舌を巻いていた。




