第五十一話
「おっしゃー!」
四朗はともかく掘りまくった。前足でどかした土は後ろに押しやられ、掘ってきた道を埋めてしまう。
「おっと!」
目の前に生えたきた木の先端が顔を覗かせてきた。尖った枝と葉っぱが四朗に襲いかかる。
「イデデデ」
ベシベシと葉っぱが四朗の顔を叩き、木は脇を掠めて通過していく。だが木の幹が太くなると空間を圧迫し始めた。
「向きを変えたいけど、木が向かってくるってことは、方向は合ってるんだな」
緑の石が木を生み出すのだから、その根元にソレはあるはずだ。ベシベシと顔に当たる葉っぱには腹が立つが、緑の石を目指して四朗はまた、掘り始めた。
迫る枝を伏せて避け、細ければ爪で八つ裂きにしてみたりと、猫らしい動作でいなしていく。だが、進めども進めども土ばかりだ。たまにモグラがこんにちはして驚くが、すぐにいなくなってしまう。
ひたすら土を削り、木を避け、四朗は進む。チェルナの事を、すっかり忘れて。
「どれくらい進んだか分からねー、掘っても掘ってもキリがねー」
白猫のぼやきは、土に染み込んでいった。
「シロー! どこなのじゃー!」
チェルナも必死に土を爪で掻いているが、四朗ほど進んではいなかった。単に四朗が楽しんでしまっているのもあるのだが。
「木が邪魔なのじゃ!」
チェルナ目の前にひょっこり現れる枝に驚いては止まり、八つ当たりで引っ掻いた。そんな事をしていれば四朗とは余計にはぐれてしまう。だがチェルナは焦りもあるのか、不機嫌に唸るだけだ。
そんなチェルナを馬鹿にするように、木は次々と押し寄せてくる。
「もー、キリがないのじゃー!」
奇しくも白猫と黒猫は同じ事を叫んでいた。
「あの二人、大丈夫かねえ」
エイラは左手にソーサー、右手にカップを持ち、杖の上で呑気に珈琲を啜っている。二人が地面の下に潜ってからそれ程経った訳ではない。だが姿が見えないという状況は、魔女のエイラでも不安を感じてしまうのだろう。その間にも木はメキメキと音を立て、地面から姿を現してくる。
「お、頑張ってるねえ」
エイラは這い出てくる木が、ボロボロになっているのを見つけ、ニヤリと笑った。傷ついた木は、次から次から沸いてきている。
この爪でガリガリと削られた木が、二人の生存の証でもある。逆に考えると、綺麗な木が出てくるならば、二人に何かあった事を示している。木が出てこなくなれば、四朗達が無事に緑の石にたどり着いたことになる。
「さーて、ノームが出てこなければ良いのだけれど……」
そんなエイラの希望を打ち砕くように、顔を真っ赤にし、湯気まで立てている小さな白いヒゲのオジサンが、杖の上のエイラに向いてがなり立てた。
「うらー、なーにやってるだー! 大事な木さ、何てことしてくれるだー」
四朗よりも小さな体で、グルングルン腕を振り回し、全身で怒りを表しているようだった。
「もう来てしまったか」
プンスカと怒る小さなオジサンを見た魔女は、はぁ、と気怠そうなため息をついた。




