第四十九話
翌朝、四朗達は杖の上にいた。鬱蒼どころではなく、所狭しと生える木々の上を、悠々と浮かんでいる。
「しかし、すごい木の量だね。ここはそうでもないけど、下は風が強いのかなぁ」
上から見える木々の葉が、ゆらゆらと揺れている。一様に揺れていて、うねる波にも見える。
「あぁ、あれは木が押し出されているんだよ」
エイラはさらっと言う。
杖が前進を止めた。すると、木がこちらにもぞもぞ動いてくるのがはっきりと分かった。動くというか、押し寄せる感じがして、ちょっと恐怖を感じられる。
「……百歩じゃなくて千歩くらい譲って木が動くのは認めるとして、根っこはどうなってるんだか……」
「想像できないのじゃ」
杖の上で二匹の猫が、しげしげと森を見下ろしていた。
「木の移動する速度から推測すると、もうちょっと奥だね」
ふむ、と顎に手を当てエイラは呟いた。
「緑の石は、赤い石の時みたいにノームの足元にあるとか、そんなオチ?」
四朗はエイラを見上げた。また坂道をゴロゴロと下るような展開になるのかと、不安ではあるのだ。
「いやぁ、今度は穴掘りさ」
エイラはパチンと指を鳴らすと、空中にスコップが現れた。先端が三角の、掘り易そうなスコップだ。
「この体では、スコップは使えないのじゃ」
「この体の方が小さいしね」
四朗とチェルナは宙に浮くスコップを眺めている。どう見ても猫の扱える大きさではない。そもそも猫はスコップなど扱えない。
「あぁ、大丈夫。君たちの体は強化されているから、穴掘りなんてお手のもんさ」
エイラが手を伸ばしチェルナを抱き上げた。前足を指で挟み、ちょっと押すと、にゅっと爪が出る。
「この爪でガリガリと掘るんだよ」
「ここ掘れワンワン状態だな。ってか、犬じゃないし」
「はは、強化されてるから、岩も切り裂けちゃうぞ」
「……街で男をひっかいた時に、大変な事にならなくてよかったのじゃ……」
チェルナは項垂れて反省した。
「あれは私の為にやってくれたんだろ? 彼らの怪我は治したし。問題はないさ」
魔女は黒猫にすりすりと頬ずりをした。
昼過ぎには目的地上空に到着した。ある地点を中心に、木々が円形状に広がっているので、非常に分かりやすかった。次々と生み出される木を、四朗とチェルナは唖然と見つめていた。不思議な光景で目が離せない、というのが正解だった。
「木が、生えてくるのじゃ」
「地面から、こんにちは、してるね」
文字通り地中から木がせりあがってきていた。メキメキ音を立てて土をどかしている。
「地中の緑の石から出た芽が、地面に出る前に成長して木になっちゃってるんだよ。いやぁ、自然はすごいねぇ」
感心していた四朗だが、とあることに気が付いた。
「ってことはだ。木が蠢く地面を掘り返すのか?」
「お、いいところに気が付いたね。チェルナの為に緑の石を掘るのは大変だったよ」
エイラは遠い昔を思い出している目をした。
「掘って掘って、ひたすら掘って。次々出てくる木を壊し続けて。あぁ、思い出すだけでもため息が出るよ」
「……で、更にノームが邪魔してくる、と」
「シロ君、今日は冴えてるねぇ!」
「なんか、悪い予感しかしないのじゃ……」
魔女は愉快そうに笑ったが、お供の猫二匹は、うんざりした顔をしていた。




