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猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【緑の石】
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第四十八話

「ノームって初めて聞いたのじゃ」


 チェルナは初耳のようだ。と言う事は有名ではないのかもしれない、と四朗は思った。四朗も詳しく知っているわけでは無い。ここはエイラに聞くのが間違いない。


「ノームってのはだね」


 エイラは又も白衣を着こんでいた。この世界でもコスプレって願望はあるんだろうな、と四朗はおぼろげながら、思った。

 エイラは生徒であるチェルナに教えていた。四朗も一緒に聞かなければならない。でないと、後でチェルナに聞かれて時に答えられない。四朗もチェルナの横にちょこんと座る。


「緑の石によって引き起こされる膨植の木々を、食べているんだよ。そりゃあ、凄い勢いで食べるのさ」


 エイラは何処か自慢げだ。自分のことではないのに、などと考えていると、エイラの視線が四郎に刺さって来た。どうやらエイラはこの説明する時間が好きらしいく、邪魔されたくない様だった。


「黙って聞いてよ」


 白猫は、この世界で大事な事を一つ悟った。





「ということはじゃ、緑の石を取るという事は、盗むということなのじゃな?」

「お! チェルナも賢くなったねぇ~」

「当たり前なのじゃ!」


 チェルナは褒められてうれしそうだが、四朗はちょっとげんなりしていた。盗る、という事は良くない行為であって、当然ノームとやらの怒りを買う事になるわけだった。緑の石が引き起こす膨植の木々を食べている事実は、軽くはないのだ。

 生物だったら、食料を奪っていくものを許さないだろう。まぁ、妖精が生物かどうかという議論は横に置いておくが。

 すかさず四朗が手を上げる。それを見たエイラが「なんだい?」と聞いてきた。


「その緑の石をとっちゃったら、木々が生まれなくなるんだろ? そのノームって奴は生きていけるのか?」

 

 四朗としては尤もな質問のつもりだった。だがエイラの答えは斜め上を言っていた。


「あぁ、そしたら残されたノーム自身が緑の石になるのさ。で、新しくノームが自然発生するんだよ」

 

 答えを聞いた四朗の顎がガクンと垂れ下がった。この世界の法則というは、やっぱり理解できないのだ。


「おや、不満かい? 無くなったら補充される。実に自然じゃないか!」

「イヤイヤイヤ! そこで補充されるべきは緑の石であって、ノームじゃないだろ!」

「え? だって、需要と供給ってのがあるだろう? 間違っていないと思うけどなぁ」


 エイラが珍しく頭を捻っている。チェルナは話について行けずに、ふわぁ~、と欠伸をしていた。


「だって、ノームは妖精だろ? 自然と言ったら石の方じゃないか」

「え、だってノームも自然の一部だよ?」

「は?」

「へ?」


 四朗とエイラはピタっと動きを止めた。お互いの理解に齟齬があるようだ。


「自然とは、全てだよ。あらゆる現象を含むんだ。存在するものは全て何かに繋がっている。それが自然さ。シロ君のいた国では違うのかい?」


 エイラは、さも当たり前のことだ、と言わんばかりの顔をしている。

 四朗のいた日本では、人間が創った物は人工物として扱っていた。全てが自然ではなかった。第一、赤い石だの緑の石だの、摩訶不思議なものは存在していなかった。

 四朗はこの世界と以前の世界は別なんだ、と思ってはいたが、今回のことで本当に別なんだ、と身に染みた。


「ま、まぁ違ったんだけど、ここではそれが当たり前なら、考えを改めるよ、うん」


 緑の石を取り込めば、寿命はエイラと同じになる。この事でも既にありえない事だ。

 四朗は思い悩むことよりも、思考停止を選んだ。目の前の、非現実的な現実を受け止めた、ということだ。


「ふむ、理解が速くて助かるよ!」


 エイラがニッコリと笑った。そこにチェルナが乱入してきた。


「難しそうな事ばっかり言ってないで、妾も混ぜるのじゃ!」

「あ、チェルナ、やったな~」

「ははは、やきもちかい?」

「違うのじゃ! ちょっと悔しかったのじゃ!」

「それをやきもちと言うのだよ!」

「だからって耳噛まないで! でも舐めるのも止めて~~」

「優しくするから、大丈夫なのじゃ!」

「それ俺のセリフ!」

「あはは!」


 高い木の枝の上のベッドでは、じゃれつく白と黒の猫をみて、笑い転げる魔女の姿があった。

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