第四十七話
陽も大分傾いて、空は青からオレンジに変わっていた。付いてきていた鳥たちも、どっかに行ってしまったのか姿はない。ねぐらにでも帰ったのだろう。杖は、そんな事はお構いなしに、茜色の空を飛んでいる
「そろそろ寝床を作ろうか」
沈みゆく夕日を見ながら、エイラが提案した。
「また枝の上?」
白い毛が、夕焼けのように赤く染まってしまった四朗がぼやいた。四朗は、枝の上に置かれたアンバランスな寝床が不安だった。髭と尻尾が元気なく垂れ下がっているのが証拠だ。
「大丈夫なのじゃ。落ちる事はないのじゃ」
チェルナは尻尾を立てて楽しそうだ。ひときわ高い木の枝にベッドを固定すると、朝の眺めは良いのだ。いつもは上からだけの朝日が真横からも来るのだ。寝坊しなければ、の話だが。
「どうせ夜は真っ暗で見えないんだから」
「先日満月だったから、夜でも明るいんだよ!」
四朗は必死だ。枝の上に置かれたベッドは風で揺れるのだ。落ちないとはいえ、怖い。
「揺りかごと思えば良いじゃないか」
魔女はケラケラ笑っていた。
「なぁエイラ。赤い石の時みたいに、また何かがいるのか?」
高い木の枝に設置されたベッドの上で、シーツに爪を立て、必死に揺れの恐怖と戦っている四朗が尋ねた。四朗はベッドの真ん中で這いつくばって踏ん張っている。相当の恐怖なのだ。
「はは、そんなに怖がらなくても。魔法で見えない柵を造ってあるから、大丈夫さ」
エイラはそう言いつつ、ベッド脇までお尻でスリスリと移動し、空を蹴った。ドコンと音がしてエイラが蹴った空間が歪んだ。ははは、と笑いながらエイラは何度も蹴ると、何度も音がする。
「ほぉー、さすがなのじゃ! これで落ちなくて安心なのじゃ」
「ははは、それほどでもあるのだよ」
エイラの機嫌は良いようだ。
「み、見えない壁なんて、壁なんてー!」
ベッドに毛を逆立て、しがみつきながら、四朗が叫んだ。
「はは。それよりも今の答えだけど、いる、ね。まぁ、妖精さん、だけどね」
魔女はニンマリした。
「……妖精?」
四朗は、え?、という顔をした。
「妖精というと、羽が生えていて、小さくて、可愛くいい、あれじゃな!」
反対にチェルナは嬉しそうだ。結構具体的で、見たことがあるかのようだ。
「お、チェルナは詳しいねぇ。見たことがあるのかい?」
「絵本で見たのじゃ!」
チェルナは自慢げに、二パッと笑う。絵本でなら四朗だって見たことはある。ピーターパンの相棒のような形だが。
「あー、ちょっと違うんだ。髭の生えた気のいい、小さなおっさんなんだよ」
この言葉を聞いたチェルナは、真っ黒な毛が、一瞬だけ白くなった。驚きも突き抜けたのだろう。分からないでもないが。
「んーー、なんか聞いたことあるかなぁ。ドワーフとかホビットとかノームとかだっけ?」
「お、シロ君知ってるねぇ。そう、ノームだ」
「シロ、凄いのじゃ!」
四朗はゲームか何かで知った事をいっただけだが、当たりだった。世界が違うが、こんなところは似ているのだなと、四朗は不思議に感じた。




