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猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【緑の石】
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第四十六話

 太陽がニコニコと微笑んでいる晴れの空を、魔女と猫二匹が杖に乗って飛んでいた。脇には、仲間だと勘違いした鳥を引き連れている。


「で、どこに向かってるんだ?」


 杖の先端に陣取っている四朗がエイラに振り向いた。背中に張り付いているチェルナも同時に振り返る。そのエイラは杖の後ろに横座りになっていて、その鳥たちと会話をしていた。エイラは楽しそうに笑っている。


「あっはっは。おっとすまないね。いま彼から教えて貰ったのだけど、ここから西に膨植している森があるらしい」


 鳥との歓談を中止してエイラは答えて来た。鳥からの貴重な情報だ。

 だがその鳥は四朗とチェルナを警戒して杖の前方には近づかない様にしている。中身は人間でも外見は猫だからだ。


「意外に鳥も物知りなんだな」

「お話に聞いたのじゃが、渡り鳥はすっごい遠くまで飛んでいくらしいのじゃ!」

「へー、チェルナも物知りだね」

「のじゃ!」


 振り向いた四朗はチェルナと話をしている。そんな二人をエイラは楽しそうに眺めている。そんないつもの光景だった。


「で、どれくらいで着きそう?」

「んー、三日くらいかな?」

「じゃぁその間、またシロにお話をしてもらうのじゃ!」

「おっ、それいいねぇ」

「……ネタ切れだぞー」


 魔女と猫二匹は、いつもの通りであった。





 そんな空の旅もそろそろ三日目になる。視界に見えるのは森の緑と空の青しかなくなってしまった。上を見れば空の青。下を見れば森の緑。地平線まで濃い緑一色だ。


「どこまで森なんだよ……」


 四朗は杖から身を乗り出して地上を覗いている。木木木木木木木木。森という漢字にもう四つくらい木を付け足したいくらいの木の洪水だった。


「これが膨植さ。この辺まで来ちゃうと、人間は入ってこれないね」

「ほえぇぇぇぇ。お城でも木はあったのじゃが、これほどまでにあるのは、想像できないのじゃ!」


 生えている木は、どれも大きかった。葉っぱも青々と茂り、風が吹けば葉っぱの波が立った。


「デカいけど、あれって樹齢何年くらいなんだろうか?」

「あれくらいなら一年ってとこだろうね」

「は? 一年?」


 四朗は森の木々をあれこれ見た。どう見ても一年で育つとは思えない程、背が高いのだ。四朗の記憶にある五階建てのマンションよりも大きい気がした。


「これが一年で、かよ……」

「木こりさんも、大変なのじゃ」


 二人はエイラの言葉を聞いて、呆気に取られていた。そんな二人を見てエイラは笑っている。


「早く育つ代わりに、枯れるのも早いのさ。自然ってのは、色んな都合がうまーく噛み合って、今の姿があるんだよ」


 エイラの言葉に、チェルナが下顎をだらーんと垂らしている。


「す、すごゃいのじゃ。エイラは良く知っているのじゃ! 物知りなのじゃ!」

「はは。魔女が営々と紡ぎ続けている記憶さ。でもね、むかーしから、自然の摂理なんて変わってないんだよ」

「知識の蓄積かぁ。人間の寿命じゃ限界があるし、脳は持っても百年ちょいだって言うしなぁ」


 四朗の言葉にエイラは目をパチクリさせた。


「へぇ、シロ君は博識だなぁ」

「ん? あぁ、人間だった頃知ったことでさ」


 四朗は人間だった頃を少しだけ思い出したが、あまり良い思い出がなかったから、途中で放棄した。今生きている猫の体での生活の方が、よっぽど楽しい。


「この体で数百年は生きられるんだろ?」

「そうさ。私が死ぬまで生きているんだよ。嫌かい?」


 エイラは笑ったが、ちょっと寂しそうだった。長く生きる事の代償は身をもって知っているからだ


「前の人生は、結構あっけなく終わったんだ。その代り、こっちでは長生きできるんだろ。ま、エイラの近くにいると飽きないから」

「はは、嬉しいことを言ってくれるね」


 魔女はニヤリと笑った。

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