第四十四話
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
底辺でまったりもっくりと、匍匐していきます。
その晩、草原で野営することにした魔女と二匹の猫は、食事も終え、ベッドで微睡んでいた。
草原を吹き抜ける風はちょっと冷えて寒いくらいだが、ベッドには結界でも張ってあるのか、風が入り込んで来る事は無く、昼間の様にポカポカしていた。
そのベッドの上で、四朗とチェルナは鼻を突き合わせて座っている。箱座りというやつだ。
「だからさ、エイラにも彼氏が必要だと思うんだ」
「理解者は必要なのじゃ」
四朗とチェルナがこそこそと話をしている。エイラは背中を向けて寝てしまっているようだ。
「今日、それがはっきりしたよ」
「のじゃ!」
街であった出来事についてだ。
魔女の存在は信じられていないのかもしれない。そんな事よりも、魔女だと言うだけで忌諱されてしまっては、エイラが可哀想だった。
エイラは何もしていない。ただ絡まれただけだったのに、結局は逃げるように街を出なければならなかった。その時のエイラが寂しそうな顔をしたのを、四朗は見たのだ。
「でも普通の人間だと、先入観に囚われちゃってるからなあ」
「先入観って、なんなのじゃ?」
チェルナが黒い頭をぐるりと回した。まるでフクロウのようだ。四朗は考えるように視線を上に向けた。
「思い込み、かなぁ?」
「なるほど、それならわかるのじゃ!」
「チェルナ、声が大きいって」
四朗に窘められたチェルナは両前足を口にあてた。この二人はエイラに内緒の密談をしているのだ。
静かにしたからか、草原を駆け抜ける風の音が響く。四朗が思わず空を見上げれば、そこには二つの丸いお月様が並んでいた。
神々しくも優しい二つの月は、真っ黒な空に、数多の星を従え、ぽっかりと浮かんでいた。
「そうだ。お月様に、お願いしてみようか」
四朗がぼそりと呟いた。四朗の瞳には、二つの満月が輝いている。
「そうなのじゃ! 四朗は良いことを言うのじゃ!」
「だから静かにって!」
「四朗もうるさいのじゃ!」
「うーーん、むにゃ……」
エイラが寝言を言うと、四朗とチェルナはびくっと尻尾を震わせた。二人とも口に手を当てて、お互いを見合った。
「……静かにするのじゃ」
「……そうだね」
二人は並んでちょこんと座った。白と黒の猫がお月様を見上げている。四朗は両手の肉球を合わせて祈り始めた。
――エイラを理解する彼氏ができますように。……いや、違うな。エイラが幸せになりますように。
脇で見ているチェルナも四朗の真似をした。器用に手を合わせて祈りを始めた。
何を願ったのかは分らないが、自分と同じだろう、と四朗は思った。街ではチェルナの方が、ぷんすか怒っていたのだ。その分想いも強いだろう。チェルナは、ずっと手を合わせている。
チェルナは手を戻すと、ニパッと笑った。
「……きっと、叶うのじゃ!」
チェルナは、願いは叶ったも同然、と満足そうだった。四朗もニッと笑った。二人は笑顔で見あっていた。
「ふわぁ~~。そろそろ寝るのじゃ……」
「うーん、おやすみ~」
二つの満月が照らすベッドでは、白と黒の猫が、丸まってクッションになっていた。
その脇で寝たふりをしていた魔女は、こっそり、ニマっと笑った。




