第四十二話
街の入り口では、一応チェックを受けた。見た目二十歳程度の若い女の子が荷物もなく、猫二匹を連れて歩いてきたのだ。当然怪しむだろう。
「お嬢ちゃん、どっから来たんだ?」
街を守る自警団だろう、なかなか良い体つきの中年の男が、目を細めて寄ってきた。威嚇しているのかもしれないが、あからさまに視線が下の方を向いている。エイラのむきだしの足か、女性を主張しすぎている胸でも見ているのかもしれない。
「いやぁ、ちょっと道に迷ってしまってね」
エイラはこう言いながら、ぱちっとウィンクを決めた。すると彼は「いやぁ、大変ですねぇ。ささ、どうぞどうぞ」と道を開けてくれた。いきなり豹変することは考えずらい。あからさまに何かやったようだ。
「ありがとう」
魔女はミニスカートから覗く艶めかしい足を見せ付け、手を挙げて素通りしていった。
「エイラ、何かやっただろ」
歩きながら四朗が見上げていた。じとーっという目になっている。
「エイラが可愛いからなのじゃ。可愛いのは罪なのは、仕方がないのじゃ」
チェルナが四朗を見て反論している。こっちもじとーっという目になっている。
「可愛いのに異論はないけど、あれって魔法だろ?」
四朗はチェルナに視線を移した。目線が違うから忙しない。
「勿論、魔法さ。街の入口でひと悶着なんて、つまらないもの」
エイラは、ふふん、とすました顔で歩き続ける。恐らくこの街で一番賑やかな通りであろう、商店が連なっている道の端っこを歩いている。道の真ん中は馬車の通り道だ。ぼさっと歩いていたら、馬にはねられてしまう。
「あぁ、二人とも、街では静かにしておいてね。猫がしゃべるなんて知れたら、大騒ぎになっちゃうしね」
道行く人の半分はエイラを見ていた。若く可愛い女性が、これだけ肌を露わにしているのは、珍しい。奇異の視線と、嫉妬の視線が混ざり合っていた。
「わかった!」
「わかったのじゃ!」
二人は声を揃えた。
「……わかってないじゃないか」
魔女は、ふぅ、とため息をついた。
「えっと、カリカリは買ったし、燻製肉も買った。魚も買ったから、これはたき火で焼こうかな。珈琲豆も買ったし……」
エイラは買った物の詰まった布の袋を抱え、指折り確認していた。足元では猫のふりをしている二人が見上げている。
傍から見れば、可愛い女の子が猫と一緒に買い物をしていると映るだろう。非常に頬えましい光景だ。
「そうだ、あれも買おう。ふふふ」
エイラは二人を見て、ニヤッと笑った。不穏な視線に、四朗は背中の毛が逆立つ感じがしたが、声には出せなかった。しょうがなく、にゃー、と鳴いた。
「そうそう、その調子」
エイラはニッと笑うと、両手で布袋を持ち、ふりふりとスカートを揺らし歩いていった。四朗とチェルナも尻尾を立ててヒタヒタとついていく。
「たまには、人混みもいいもんだね」
魔女は街並みを眺めながら、呟いた。




