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猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【赤い石】
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第四十話

「チェルナ。シロ君を助けに行くよ!」

「のじゃ!」


 エイラが指を鳴らすと、目の前に杖が浮かび上がった。チェルナを小脇に抱えると、杖に跨る。


「シロ君を捕まえて!」

「分ったのじゃ!」


 杖は突然加速して、炎のミニスカートを翻しながら、一瞬ですり鉢の火口まで下った。チェルナは杖を後ろ足で挟み、ぐるんとぶら下がった。


「いっくぞー!」

「ばっちこい、なのじゃ!」


 エイラは杖を操ってファイヤードレイクの足元をすり抜け、寝転んでいる四朗の元に飛び込んだ。すり抜けると同時にチェルナが四朗の後ろ足をがしっと掴み、そのまま逃走する。

 パンとエイラが手を叩くとチェルナは炎の輪郭から艶々の黒い猫に戻った。


「ははは。だーいせーいこー!」

「はははやく降りるのじゃ! シロが落っこちてしまうのじゃ!」


 目を回したままの四朗は右後ろ脚をチェルナに掴まれたまま、ぶらーんとぶら下がっていた。そのチェルナも爪を立てるわけにもいかず、肉球で必死に掴んでいたのだ。


「おっと、危険だね」


 またもパンと手を打つとエイラが元に戻り、杖に後ろ足で引っかかっているチェルナを、四朗ごと引き上げた。

 二人は胸の辺りで抱っこされる形で、ぴったりと収まった。エイラの女性の双峰が二人を圧迫している。


「むむむ、けしからん胸なのじゃ。妾には、なかったのじゃ!」


 チェルナは肉球をむにっと押し当てて、柔らかいそれを遠ざけた。ぐるぐる目の四朗も胸にうずもれていたが、こっちは当然反応は無い。


「チェルナは幼かったから、仕方ないね」


 エイラも苦笑いをしている。チェルナは、むー、という顔をしていた。猫だけど、なんとなく表情はわかるのだ。前足で自分の胸を抑えているが、猫に豊かな乳房などないのだ。


「まぁ、シロが嫌じゃなければ、いいのじゃ」

「ほほぅ、あてこすりかい?」

「ふふん、そんなつもりはないのじゃ」


 チェルナはぷいっとそっぽを向くが、そんなつもりはアリアリである。

 女二人のいがみ合いなど知らん顔で、四朗は気を失っていた。


「ま、赤い石もシロ君の体に吸収されたし、これでチェルナを身ごもらせることは、できるようになったかな?」


 エイラが目を細め、意味深な事を言った。


「どーゆー事なのじゃ?」


 チェルナは首を捻った。七歳の女の子では、赤ちゃんはキャベツから生まれる、とかの誤魔化しを信じているのかもしれない。


「チェルナの体は使い魔だ。当然、強力な体だ。妊娠させようと思っても、男性側も強力でないとできない、と考えられるんだ」

「……良く分らないのじゃ」


 チェルナはますます首を捻る。首が一回転しそうな勢いだ。


「はは、その内にシロ君が教えてくれるさ」


 魔女は最後にトラップを仕掛け、笑ってごまかした。





「これで帰れるのじゃ」


 杖にちょこんと座っているチェルナが、ふぅと息を吐いた。四朗はまだ気を失ったままだ。落っこちてしまうから、チェルナに背負われている。男の面目など、どこかに行ってしまったようだ。


「んー、折角遠くまで来たから、このまま緑の石を探しにいってしまおう。さほど遠くは無いんだ」

「ついでだったら、それでもいいのじゃ」


 チェルナは背負っている四朗の手を掴み、手を挙げてる風に操ったうえで「さんせーい」と物まねをした。


「はは、似てるねぇ」

「よーく観察をしてるからなのじゃ!」


 魔女と黒猫は、声を合わせて笑っていた。

ここで一区切りです。ストック切れなので、年内は不定期更新になってしまいます。

すみませんすみませんすみません。

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