第三十九話
「にゃにゃにゃにゃ!」
猫に戻ってしまったのか、四朗がにゃーにゃー言いながら疾走していく。青い石を体に取り込んだせいなのか、身体能力は上がっているようだった。
「おぉぉぉ、はえぇぇぇ!」
走っている本人が一番驚いているのはどうかと思う。が、四朗は空を滑るように赤い石目掛けて駆けていた。獲物を狙うチーターよりも、断然カッコよかった。
「ヴモ?」
四朗が大騒ぎしているからか、寝転んでいたファイヤードレイクが首を擡げた。くるっと首をまわし、視界に四朗を捕えた。
「あ゛」
四朗が気が付いた時には、ファイヤードレイクは立ち上がりかけていた。ガバっと羽を拡げて、近づいてくる四朗を威嚇しているようだ。
一心不乱に駆けている四朗は、今更止まれない。すり鉢で坂を下っているから余計だ。足を止めれば多分転んで、そのままごろごろと転がっていくのだろう。
嫌な事を想定すると、それは実現する。こんな名言は無いが、悪い予想は、得てして実現してしまうものだ。
「あぁぁ、やっぱりぃぃ!」
四朗が前足をつるっと滑らせると、そのまま頭から地面に突っ込んだ。そして勢いづいた体は回転を始める。
「にゃあぁぁぁぁ!」
四朗の体は高速回転し、真っ白なタイヤに変身した。ごろごろごろごろと、赤茶けた坂を転がり落ちていく。
「おぉ!」
「凄いのじゃ!」
見物している二人には、四朗の焦りは伝わっていなかった。何らかの技でも披露してんるだ、くらいにしか受け取っていないのだろう。手を叩いて喜んでいた。
「すごくなぁぁぁぁい! たぁすけてぇぇ!」
回転する白いタイヤからは、悲鳴が上がっていた。土煙をまき散らして、白いタイヤは暴走していく。
「ヴモモモ!」
向かってくる白い塊に、ファイヤードレイクも焦っていた。猫だったモノが、見たことも無いものに変身して、悲鳴を上げながら、猛スピードで迫っていたからだ。
「め、めが回るぅ~」
まったくもって速度を緩めないまま、四朗はファイヤードレイクの足の間をすり抜けて、赤い石に激突した。
「うにゃーん!」
ボーリングの玉に薙ぎ倒されたピンの様に赤い石に跳ね飛ばされて、四朗は宙を舞った。手足を広げ、大の字のまま、ダイブしていた。跳ね飛ばした赤い玉も、一緒に空中を飛んでいた。
華麗に空中で回転する四朗の体は制御不能で、飛ばされるままだった。その後をトレースして赤い玉も飛んでいく。
「世界が、回ってるぅーーー」
「あれはちょっと、マズい、かな?」
「流石にあれは、マズいのじゃ」
「んぎゃ」っという情けない悲鳴をあげ、四郎は赤茶けた地面とごっつんこした。大の字に倒れているそのお腹目がけて、赤い石も落ちて来た。
「あ」
「のじゃ!」
もぎゅっという音がすると、赤い石は四郎のお腹に沈んでいった。目を回してしまっている四朗は、何が起こったのか全く気が付いていない。
「まぁ、うまくいったってことで」
「……成功とは言わないと思うのじゃ」
魔女と黒猫が見つめるなか、伸びている白猫に赤い牛が近づいていた。




