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猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【赤い石】
35/96

第三十五話

「あるけーあるけー♪」


 エイラは何かの歌を歌っている。ぽよんぽよんと炎を触っては、ふふっと笑っていた。


「エイラは楽しそうなのじゃ」


 チェルナは、鼻歌交じりで炎を突いているエイラを見上げていた。四朗から見ても、エイラは楽しげだった。


「前に来た時は一人だったからね。今は二人が一緒にいるんだ。そりゃ楽しいさ」


 エイラはにっこりと笑った。

 孤独を幾年月重ねてきたエイラにとって、今の生活は刺激的で楽しいのだ。遠い国から来た不思議な白い猫と御姫様だった黒い猫。尚更楽しいのだ。


「そっか」

「そうさ!」

「妾も楽しのじゃ!」


 三人は色々あった末に、ここいる。人生こんなもんだ。





 昇り続けてそろそろ小一時間が経とうとしていた。


「結構歩いたよね」


 ちょっと疲れた感じの四朗だ。猫の歩幅は人間に比べれば狭い。繰り出す歩数も桁違いに多いはずだ。


「チェルナはどう?」

「童は大丈夫なのじゃ」


 チェルナはニパッと笑っている。単に四朗の運動不足なのか、体力が足りていないのか。


「帰ったらシロ君を鍛えようか?」

「じゃあ童も一緒に鍛えるのじゃ!」


 使い魔の猫と数百年を生きる魔女に比較されてしまった、未だ普通の猫の四朗は、困惑した。





 三人が地面に座って休憩していると、上の方で物音がした。羽を高速で動かしている、ブーンという音だ。

 音に気が付いた三人が見上げれば、そこには大きなトンボが飛んでいた。真っ赤な体で、炎の熱でも問題は無いのか、平然と飛んでいる。


「あれって、トンボ?」

「あぁ、ドラゴンフライだね」

「結構大きいのじゃ」


 トンボはチェルナや四朗と同じくらいの大きさはあるようだった。沢山ある目でこちらを見ているようだ。


「そうだ、アレも炎を食べるんだった!」


 エイラはポンと手を叩いた。その音を合図にドラゴンフライがすすっと近づいて来る。


「ちょ、食べられちゃうじゃん!」

「まぁまぁ」


 逃げようとした四朗の尻尾を、エイラがむにっと掴んだ。四朗は手足をジタバタするも、体格差でエイラには勝てない。


「やぁ、こんにちは。この辺にファイヤードレイクはいたかい?」


 エイラはドラゴンフライに向かって話しかけた。ドラゴンフライの沢山の目がエイラを捉えている。

 ドラゴンフライは静かに地面に降り、羽をパタンと畳んだ。


「キィキィキィ」

「へぇ、そうなんだ」

「キキィ」

「はは、なるほどね」


 エイラは何やら会話を交わしているようだが、四朗とチェルナにはさっぱりだった。そもそもトンボに知性があるのかも分らないのだ。

 今までの常識が通じないとはいえ、四朗の頭のキャパもオーバーしそうだった。


「……トンボと話をしてるのじゃ」

「エイラは何でも出来るんだよ。そう思っていた方が、楽だよ」

「本当なのじゃ」


 白と黒の猫は、トンボと雑談をしている魔女をぼんやりと眺めていた。

次回は明後日です。

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