第三十三話
エイラと猫二人は、もっと山の近くまで杖に乗って行った。ゆっくりなので鳥籠ではなく、杖にお座りをしていた。
「やっぱり、この方がいいな」
「風が気持ちいいのじゃ!」
二人は髭をそよそよとたなびかせ、気持ち良さげに目を細めていた。だが、火の山に近づくと、どんどん気温は上がって行った。
「なんだか暑くない?」
「暑いのじゃ。この毛皮では茹だってしまいそうなのじゃ」
二人とも舌をびろーんと出して、暑そうにしていた。猫の毛皮はモフモフだけど、脱げないのだ。
でも火の山はまだまだ先だった。
「ちょっと早いけど、魔法で炎になってしまおうか」
エイラはそういうと、パンと手を叩いた。一回叩くとチェルナが真っ赤な炎の輪郭で描かれた。二回目では四朗が。三回目でエイラも炎になった。
メラメラと燃える炎がそれぞれの輪郭を描いていた。その炎の輪郭はゆらゆらと揺れ動いていて、赤い海月でも見ているかのようだった。
「お? おおおお!」
「なななんなのじゃ!」
「ははは、なかなか面白いね!」
魔女と二匹の猫は轟々と音を立てて燃えていた。
三人が炎に包まれていても、杖が燃える事は無かった。
「不思議なのじゃ」
「エイラは何でも有りだな」
チェルナと四郎がお互いの体に触れることは出来た。ポンポンと触れると炎も揺らめく。んがっと口を開けば炎の輪郭も変化する。ふぅっと強く息を吐けば炎の塊が飛んでいった。
「へへーん、魔女に不可能は無いのだよ!」
エイラはニカッと笑う。
「ただ気を付けて欲しい事がある。体が炎になっているから、炎を食べるファイヤードレイクには食べられちゃうからね」
エイラの言葉にチェルナも四郎も「え」と声を揃えた。
「食べられちゃうの?」
「い、いやなのじゃー」
二人の尻尾はピンと立ち上がった。エイラは苦笑して「近づかなければいいんだから」と宥めた。
「それに彼らは足が遅いんだ。走って逃げれば捕まる事は無いさ」
エイラは落ち着かせるように、優しげな笑顔をみせた。
「まぁ、エイラが一緒だし。何とかなるでしょ」
「うーん、でも不安なのじゃ……」
「滅多に経験できない事ではあるし。こーゆー時は楽しんだ方が良いって」
四朗はチェルナの頭をポフポフと撫でている。見方を変えれば楽しめるという事だ。四朗としては、楽しめそうな気がして来ていた。
「シロ君も良いこと言うじゃないか! その通りさ。いっそ楽しんだ方が、後で良い思い出になるのさ」
魔女と白猫に説得されて、黒猫はコクリと頷いた。
こんなやり取りをしたいたら、火の山は、もう目の前だった。




