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猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【赤い石】
33/96

第三十三話

 エイラと猫二人は、もっと山の近くまで杖に乗って行った。ゆっくりなので鳥籠ではなく、杖にお座りをしていた。


「やっぱり、この方がいいな」

「風が気持ちいいのじゃ!」


 二人は髭をそよそよとたなびかせ、気持ち良さげに目を細めていた。だが、火の山に近づくと、どんどん気温は上がって行った。


「なんだか暑くない?」

「暑いのじゃ。この毛皮では茹だってしまいそうなのじゃ」


 二人とも舌をびろーんと出して、暑そうにしていた。猫の毛皮はモフモフだけど、脱げないのだ。

 でも火の山はまだまだ先だった。


「ちょっと早いけど、魔法で炎になってしまおうか」


 エイラはそういうと、パンと手を叩いた。一回叩くとチェルナが真っ赤な炎の輪郭で描かれた。二回目では四朗が。三回目でエイラも炎になった。

 メラメラと燃える炎がそれぞれの輪郭を描いていた。その炎の輪郭はゆらゆらと揺れ動いていて、赤い海月(くらげ)でも見ているかのようだった。


「お? おおおお!」

「なななんなのじゃ!」

「ははは、なかなか面白いね!」


 魔女と二匹の猫は轟々と音を立てて燃えていた。





 三人が炎に包まれていても、杖が燃える事は無かった。


「不思議なのじゃ」

「エイラは何でも有りだな」


 チェルナと四郎がお互いの体に触れることは出来た。ポンポンと触れると炎も揺らめく。んがっと口を開けば炎の輪郭も変化する。ふぅっと強く息を吐けば炎の塊が飛んでいった。


「へへーん、魔女に不可能は無いのだよ!」


 エイラはニカッと笑う。


「ただ気を付けて欲しい事がある。体が炎になっているから、炎を食べるファイヤードレイクには食べられちゃうからね」


 エイラの言葉にチェルナも四郎も「え」と声を揃えた。


「食べられちゃうの?」

「い、いやなのじゃー」


 二人の尻尾はピンと立ち上がった。エイラは苦笑して「近づかなければいいんだから」と宥めた。


「それに彼らは足が遅いんだ。走って逃げれば捕まる事は無いさ」


 エイラは落ち着かせるように、優しげな笑顔をみせた。


「まぁ、エイラが一緒だし。何とかなるでしょ」

「うーん、でも不安なのじゃ……」

「滅多に経験できない事ではあるし。こーゆー時は楽しんだ方が良いって」


 四朗はチェルナの頭をポフポフと撫でている。見方を変えれば楽しめるという事だ。四朗としては、楽しめそうな気がして来ていた。


「シロ君も良いこと言うじゃないか! その通りさ。いっそ楽しんだ方が、後で良い思い出になるのさ」


 魔女と白猫に説得されて、黒猫はコクリと頷いた。

 こんなやり取りをしたいたら、火の山は、もう目の前だった。

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