第三十二話
「……エイラの考えは、色々とぶっ飛んでるよね」
「斜め上もいいとこなのじゃ」
四朗もチェルナも呆れた目を、向けた。だが、そんな二人の視線にエイラは口を尖らせた。
「だって、燃えてる物はそれ以上燃えないじゃないか。むかーし、この方法でファイヤードレイクを追い回してたんだから」
エイラは不平を申し立てるように、ぶーぶー言いながら反論した。さながら幼子の様だった。
でも、一応言っている事は理解できた。物理的に可能かどうなのかは、別問題だけども。
「なんか、さらっと追い回してたとか言ってるけど」
「エイラも大分やんちゃだったのじゃ」
四朗は、ヤンキーか!、と突っ込みを入れたかったが、この世界にヤンキーなどという言葉はない事を思い出した。その他に良い言葉が思い浮かばなかったので、黙っていた。
「若気の至りってヤツさ」
エイラはチェルナを目線まで持ち上げて、ニコッと笑った。
「さて、次はシロ君の番だ」
エイラはチェルナをそっとベッドに転がし、ブラシを持ってニカっと笑った。
「え、いや、お、俺はいいって」
「まぁまぁ。今日もお話を聞かせて貰おうかと思ってね。せめてその、フワフワの毛を更に艶々にしてあげようかと思ってさ」
ブラシを持ってない方の手をニギニギしながら、魔女は白猫に迫っていった。
草原を吹き抜ける風に、エイラは目を覚ました。頬を撫でる空気は爽やかだ。
お日様はまだ山の稜線から出てこようとはしていない。太陽も、機嫌の悪い日があるのだろう。
「うーん、昨晩の話も興味深い話だったなぁ」
腕を伸ばし、ベッドの隅っこの方で丸まって寝ている四朗を見ていた。昨晩もアンコールに答えて頑張って話をしてくれたからか、まだまだぐっすりと寝ている様だ。隣のチェルナも、まだまだ夢を楽しんでいる。
「目的地には着いたから、もうちょっと寝かせてあげよう」
エイラはふふっと笑うと、二人を起こさない様に、そっとベッドから降りた。指をパチンと鳴らして、寝間着から魔女のミニスカートに着替える。今日はスパッツは履かない様だ。
魔女のとんがり帽子をボスッと頭に乗せて、魔女エイラの完成だ。
「さて、今のうちに支度をしておこう」
魔女は肩掛け鞄から色々なものを取り出した。
「ごめーん、寝すぎちゃった」
「ごめんなのじゃ」
寝坊した二人は揃ってベッドの上から降りて、ヒタヒタとエイラのいるテーブルに歩いていく。寝坊を謝るのは偉い。
「いやぁ、起こさなかったんだよ。目的地にはついてるんだ。特段急いでいる訳でも無いし。それに昨晩の楽しませてもらったしね」
椅子に座り、珈琲を嗜んでいたエイラは、可愛くウィンクをした。
意味深な発言ではあるが、傍にいるのは猫だ。深い意味はないだろう。
「エイラを放っておくとは、世の男性の気が知れないのじゃ」
チェルナはぴょんとテーブルに飛び乗った。
「はは、ありがとう!」
エイラは嬉しそうだった。
テーブルには既に朝食が用意されていて、皿の上のパンは仄かに湯気が立っていた。
「よし、食べたら早速山に登るよ!」
魔女はニッと笑った。




