表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【赤い石】
31/96

第三十一話

 今日もエイラと杖は空を切り裂く様にかっ飛んでいた。後方に逃げていく景色は、四朗に新幹線を思い起こさせた。


「ぃやっほーい!」

「今日もシロは元気なのじゃ」


 空を滑空する快感に嬉しそうな四朗とは対照的に、チェルナはやっぱり四朗の体にしがみ付いていた。背中にひしっとくっついて白と黒は一体化していた。


「なんか、墜ちないって安心感があるから、怖くないんだよね」

「それは分っていても、怖いのじゃーーー!」


 黒猫の叫び声が、凄い勢いで後ろに流されていった。

 




 一度の休憩を挟み、魔女と二匹の猫は空を駆けていた。

 既に太陽は西に傾き、空も段々と橙色に変わっていた。そろそろ星も顔を出してくる時間だ。


「もしかして、アレ?」

「本当に、山が燃えてるのじゃ……」


 二人の視界には、轟々と赤く揺れながら輝く一つの山が映っていた。緑の草原に、ひょっこりと真っ赤に燃え盛る山が鎮座していた。


「いやー、相変わらず、よく燃えているねえ」


 エイラはマイペースだった。しかも知っている口ぶりだ。


「エイラは、来た事があるの?」


 四朗は鳥籠にしがみ付き、エイラを見上げた。


「うーん、来たのは、八百年前くらいかなぁ」


 エイラは顎に手を当てて記憶を探っていた。遠い遠い、過去の話だ。


「はっぴゃく……」

「妾が百人分以上なのじゃ!」


 二人は唖然とする他なかった。そしてチェルナは何か勘違いしている。それは掛けてもイコールにはならない。


「はは、その時はまだ若かったから、ちょっとオイタをしてね」


 魔女は苦笑いをしていたが、二匹の猫は顔を引きつらせていた。





「あの燃える山にいる、ファイヤードレイクってのは、どの辺にいるんだ?」


 夕食も終わり、ベッドの上で、だらしなくお腹を見せている四朗が尋ねた。猫ならば許される行為だ。人間の四朗だったら、即座に鼠にでも変えられてしまっていただろう。


「そうなのじゃ。闇雲に探すのは、無駄が多いのじゃ」


 明日探すにも、山を全部探すのは効率が悪い。どの辺にいるか分かれば、そこだけを探せば済むはずだ。

 チェルナも色々と学んで賢くなって来ていた。


「うーん、火口だね。そこにファイヤードレイク巣があるんだ。そこに赤い石はあるはずさ」


 エイラはベッドの上でチェルナを抱っこして、ブラシで毛並みを整えていた。チェルナの黒い毛が炎の山の光を浴びて、艶々な赤を反射していた。

 火の山のおかげで今晩は明かりが不要だった。


「でも、俺は燃えちゃうんだろ? 火口に行けないよな……」

「熱いのは嫌なのじゃ……」


 心配そうな声をあげる二人を他所に、エイラはふふんと鼻を鳴らした。やけに自信ありそうな笑みを浮かべている。


「魔女である私に、不可能はないのさ!」

「ど、どうするのじゃ?」


 チェルナは腕の中でエイラを見上げた。ちょっと不安そうな瞳だった。


「そんなの簡単さ。自分が炎になっちゃえば、燃えないだろう?」


 魔女は楽しそうに、ニカッと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ