表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の四朗  作者: 海水
魔女と二匹の猫【赤い石】
29/96

第二十九話

 既に夜が挨拶をしてきており、周囲もちょっとひんやりしてきた。二人が取って来た薪は、パチパチと優しいオレンジの明かりをともしている。


「いやぁ、美味しかった」


 テーブルの上には既に空になった皿が置いてある。パンと肉詰めを焼いたものがエイラの夕食だった。猫二人はというと、カリカリとおやつに食べた小魚の燻製だ。


「虫の音を聞きながらの食事も、いいもんだね」


 テーブルに頬杖を突いたエイラが微笑んでいた。


「爽やかなのじゃ」

「ん~、たき火も綺麗だし。キャンプとか、懐かしいなぁ」


 チェルナも四朗もたき火を見ていた。偶にパキっと爆ぜる音がするだけで、聞こえるのは虫の音と風が揺らす葉っぱの音だけだった。


「さて、寝床を作らないとね」


 すくっと立ち上がったエイラは小さな肩掛け鞄を手に取った。鞄の中を探し、にやっと笑った。


「よっと」


 掛け声一つ出すと、鞄から大きなベッドを引っ張り出し、ドンと地面に置いた。


「今日は三人一緒に寝よう」


 魔女はニカッと笑った。





「むかしむかし、とても美しくてやさしい娘がいました」


 ベッドの上で四朗が話し出した。約束の昔話の時間だ。寝間着に着替えたエイラが胡坐をかいて座り、チェルナを抱っこしていた。


「ところがこの人たちは、そろいもそろって大変な意地悪だったのです。お母さんと二人のお姉さんは、つらい仕事をみんな娘に押しつけました」


 四朗が選んだのは『シンデレラ』だ。女の子には絶大な人気を誇る童話だ。エイラもチェルナもすっかり聞き入っていた。


「そんなの酷いのじゃ!」

「そうだそうだ!」


 二人とも話に熱中して、シンデレラの酷い扱いにブーブー怒っていた。


「ある日の事、お城の王子さまがお嫁さん選びの舞踏会ぶとうかいを開く事になり、シンデレラのお姉さんたちにも招待状が届きました」


 四朗はなるべくテレを隠しながら、感情を込めて話を紡いだ。二人は息をするのも忘れたかのように、動かないでじっと聞いていた。

 四朗は、そんな二人の様子を楽しく見ていた。


「それからシンデレラは悲しくなって、シクシクと泣き出しました『ああ、わたしも舞踏会に行きたいわ。王子さまに、お会いしたいわ』」


 話がちょっと悲しいところに行くとチェルナが「酷いのじゃ」と涙を流し始めた。エイラもちょっと潤んでいる様だった。


「するとシンデレラの目の前に、魔法使いのおばあさんが現れました」


 エイラはこの場面でピクっと動いた。そして魔法でかぼちゃの馬車や白い馬に変身させるところや、綺麗なドレスに変える場面で二人は「凄い!」と声を揃えた。

 時間が迫って、ガラスの靴を落としてしまう所で「あぁ!」と嘆き、元のボロボロの服に戻ってしまった時には「うぅ」とやるせない声を上げていた。

 四朗は、表情がコロコロ変わっていく二人を見ていて、面白くてたまらなかった。語る声にも張りが出る。


「シンデレラがはいてみると、ガラスの靴はピッタリです」


 チェルナが「当然じゃ!」と叫び、エイラも「だってそうだもの!」と口をはさんだ。


「それからシンデレラは王子さまと結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


 四朗が話し終わると、エイラはチェルナをぎゅっと抱きしめて「よかったーー!」と安堵の声を出した。


「幸せになれて良かったのじゃ!」


 ぎゅーぎゅー抱き締められているチェルナからも喜びの声があがった。そして二人から拍手が来た。


「いやぁ、話した甲斐があるよ」


 四朗も満足感でいっぱいだった。


「アレだね。やっぱり魔女は正義の味方なんだよ!」


 エイラは興奮気味に叫んだ。自身が魔女だからだろう。


「シロ! もっと話が聞きたいのじゃ!」

「私も聞きたいな!」

「う~ん、何がいいかなぁ?」


 その日、三人は大分夜更かしをすることになった。森の中の場違いなベッドの上では、たき火に照らされてオレンジに染まった一人と二匹が、いつまでも動いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ