第二十八話
森の中は暗かったが、エイラのくれた灯りがあれば、進む先は見通せた。それでも猫の視線は低いので遠くまでは見えないのだ。
「なかなかよさげな木が無いのじゃ」
「生木は燃えないしね」
四朗もチェルナも落ち葉を踏みしめながら進んでいく。探している乾いた木の枝は落ちていなかった。
エイラとの距離が気になった四朗は、ちらっと振り返った。木々の隙間から橙の光が漏れていた。
「まだ灯りは見えるね」
もうちょっと探索できるという事だが、エイラから離れるのは良くない。
「あの灯りを回るように、探してみようか」
「うぅ、迷いたくないのじゃ」
チェルナは変わらず、四朗にぴったりとくっついてる。結構歩きにくいのだ。でも四朗も、小さい頃はお化けを信じていたからチェルナの気持ちも分る。暗いところは怖い。これは人間が持つ本能的な感情だから、仕方がないのだ。
「あ、なんかいい感じの木が落ちてる」
「でも結構大きいのじゃ」
落ち葉を踏み鳴らしながら近付いていくと、二人と同じ程度の大きさの朽ちた倒木が転がっていた。朽ち果て具合も良さげで、良く燃えそうだった。
「大きいのじゃ」
「うーん、この身体じゃ手で持てないしねぇ」
その木の周りをぐるぐる回りながら二人は考えた。突然チェルナが「そうなのじゃ!」と叫んだ。何か思いついたらしい。
「シロ、その木にしがみ付くのじゃ!」
「は?」
チェルナが妙な事を言いだした。四朗に木を抱えろ、と言っているのだ。
「俺が抱えても、持っていけないって」
「木を抱えたシロを妾が咥えて持って行くのじゃ!」
チェルナの案に四朗は唖然として顎を下げた。チェルナの言っていることは理解できるが、滅茶苦茶だ、と思っているのだ。
「チェルナってそんなに力があるの?」
「使い魔の体だから、大丈夫なのじゃ! だから早く木にしがみ付くのじゃ!」
チェルナはぐいぐいと体を押し付けて四朗を木に追いやっている。四朗はふぅ、とため息をついて木にしがみついた。しっかりと木に爪をたてて離れないようにもした。
チェルナは四朗の首の後ろにカプっと噛みつくと、お尻をたてて、後ろに引き摺り始めた。
「なんか、思ってたのと、違う」
木と一緒にズリズリと運ばれていく白猫は、遠い目をしていた。
「おやおや、どうしたんだい?」
抱き付いた木と一緒に引き摺られている四朗を見たエイラが、呆れた声を上げた。落ち葉が一筋分無くなっていて、引き摺った跡を教えてくれていた。
「良く燃えそうな木を持ってきたのじゃ!」
咥えていた四朗を放すと、チェルナは自慢げに話した。
「はぁ、ようやくついた。もう引きずられるのはゴメンだー」
四朗も木から離れてお尻を上げて背中をうーん、と伸ばしている。
「ご苦労さん。じゃぁ細かくしないとね」
そんな事を言って、エイラが持ってきた木を拾い上げた。その木を縦に持つと、よっ、っと気合を入れて真っ二つに裂いた。裂いた木をまた細かくして、数本の薪にしてしまった。
「やぁ、よさげな木だねぇ。これなら良く燃えそうだ」
魔女は手をパンパンと叩いて嬉しそうだった。だがその細い腕で木を裂いた様子を見ていた猫二匹は、毛を逆立てて驚いていた。




